267.サプライズも悪くない(2)
「っ! おかえり!」
嬉しそうな声に、対応を間違わずに済んだとほっとする。温泉ですでに顔を合わせているから、タカミヤも会釈で済ませた。お茶を用意する侍女の脇で、彼女らには挨拶をしているようだ。
オレはリアムの横に座った。さり気なくクッションを間に挟む。これは男女の仲だと問題だけど、今は同性の友人だから許されるはずだ。学んだ作法を思い出しながら、オレはリアムに婚約の話をしようとして……開いた口を閉じる。
サプライズプロポーズって、女の子は好きなんだっけ? テレビで観たけど、すっごい喜んでた。婚約指輪の風習がないみたいだけど、伯爵令嬢のパウラに聞いた話では貴族の婚約は貴金属を贈ることが多いらしい。この世界で指輪に特別な意味があるか。尋ねた時のパウラは笑顔で首を横に振った。
どの指に、いくつ指輪をしても関係ないらしい。だけどお揃いでペアのジュエリーを作るときは、同じ場所に着けるのが一般的なんだと。ピアスなら同じ場所に、ネックレスはもちろん、指輪もよくお揃いにすると聞いた。夫婦や親子では珍しくない。
指輪を選んだのは、やっぱり日本人の時の意識だろう。婚約するなら左手の薬指に嵌めてもらいたいし、その後はお揃いの結婚指輪をしたい。ニヤつきそうな顔を引き締め、用意されたお茶に口をつけた。皇帝陛下のリアムは毒見が終わらないと食べられないからね。
横から手を伸ばしたじいやがカップを奪い、自分が先に口をつけた。それからカップの縁を拭き清めて戻し、オレに渡す。受け取って一口飲み、首をかしげた。
「なんで、じいやが毒見を?」
「キヨヒト様は我が主人、それも北の国の王族で未来の皇族です。毒見は必須かと」
「あ、うん。ありがとう」
お礼が相応しいか、よく分からないけど。じいやは満足そうに頷いた。つうか、一瞬「婚約話バラすなよ!!」って叫んでネタバレするところだった。危ない、オレが未来の皇族なのはリアムも承知なのだ。こういうの、やましいことがあると口が滑るってやつだろうな。
クッキーも、マフィンも、出てくるたびにじいやが一口齧る。なんだろう、毒見って……やってたオレが言うのもおかしいけど、恥ずかしい。割って食べた焼き菓子をもらい、また半分にしてリアムの口に運んだ。
リップでも塗ったのかな、薄く色づいたピンクの唇が焼き菓子の粉を舐めとる姿は色っぽい。確かにこれは女性だとバレるわ。この色気を起こしたのが自分なら、本当にごめん……と同時に嬉しかった。
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