267.サプライズも悪くない(3)
リアムに恋人として意識してもらえたことが、すごく幸せだ。危険に晒さないよう、コウコにがっちり警護してもらおう。
「コウコ」
するっと足元から膝の上に上がった赤龍はミニサイズだった。彼女をリアムの膝に乗せる。
「しばらくコウコが警護につくけど、影に入っててもらう。何かあったら助けてくれるから安心して。コウコはオレにすぐ連絡すること」
『わかったわ。主人が頼れるのはあたくしだけだもの。仕方ないわね』
言葉の割に嬉しそうなコウコは、尻尾の先を振りながらリアムと挨拶を交わす。
「赤の聖獣殿、よろしく頼む」
『主人の大切な人だもの、ちゃんと守り抜くわ』
女性同士気が合うかもしれない。傲慢なところもあるが、コウコの実力は疑う余地がなかった。何より精神的に女性なのが助かる。リアムの警護に付くのに、雄はダメだ。オレが許せなかった。聖獣だろうとカミサマだろうと、異性がリアムに侍るのは腹が立つ。
コウコはするりとリアムの膝から腕に絡みついた。不思議と侍女達に「蛇よっ」と叫んだり嫌悪感を露わにする者はいない。女性って爬虫類苦手じゃなかったっけ? まあ異世界だし、聖なる蛇様だからいいのかな。
「聖獣殿、これを食べるか?」
『もう、コウコって呼びなさいよ。あたくしもリアムって呼ぶわ』
「「え?」」
期せずしてリアムとハモった。だって、その呼び方はオレだけのものなのに。思った内容が顔に出たらしく、微笑ましいと頷くじいや。後ろの侍女達は生ぬるい眼差しをくれ、リアムは小さな歓声を上げながら頬を染めた。
『悪かったわ、主人。ウィリアムだっけ? それで呼ぶから』
すっごい上から目線で譲歩されたが、拒否する気はないので頷く。くそっ、だって……両親しか呼んだことがないって言うから。オレだってセイと呼ばせるのはリアムだけなのに。思わず口の中でぶつぶつ文句を呟くと、柔らかい指先が触れた。残った文句をごくりと飲み込む。
「拗ねるな、セイ」
「拗ねて……ないもん」
口調が拗ねていると笑うリアムに、自然と口元が緩んだ。こんな些細なことで笑い合えるのが、とても幸せな気がした。この中央の国を狙っていた4つの国はもうない。同盟国と傘下に入れた国、敗戦国が2つだ。これで国同士の戦争は終わった。
残るは、貴族間の醜い争いだけだ。
「明日の裁判、ウルスラ達は資料作成で大変だな」
話を逸らす意図でそう告げると、リアムも頷く。そして思わぬことを口にした。
「ああ、婚約発表もするのだろう?」
「ん?」
「どうした」
「……っ、なんで知ってるんだよぉおおおお!」
サプライズが台無しじゃないか! オレはカッコよくプロポーズがしたかったのに。悔し涙を拭ってくれたのは、後ろから顔を覗かせたヒジリの舌だった。
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