21.呼ばれぬ客の想定外(5)

 即答された。そうか、男女の差が無いなら、中性的な名前がいいかも。聖なる獣……セイを先に使ってなきゃ、奴にあげたんだが。迷いながら、ふと気付く。


 この世界に漢字という概念はない。つまり、同じ字で読み方を変える発想はないのだ。


 リアムと愛称を決めたときも、オレが「セイ」「キヨ」と呼び方を提示した候補から選んだ。彼は「キヨヒト」という名前から、なぜ「セイ」という呼び方が発生するのか理解していない。


 聖の漢字だと「キヨ」「セイ」「ヒジリ」、他の漢字をつけた時は「ショウ」なんて読み方もする。キヨとセイは自動的に消去されるとして、選択肢はヒジリとショウ。


「ヒジリ、ショウ。どっちがいい?」


『我に尋ねておるのか?』


「そう。どうせなら好きな響きを選んだらいいよ。どっちもオレの名前の読み方違いだから」


 正確には名前の読み方違いじゃなく、漢字の読み方違いなのだが。説明しても通じないのは以前に体験しているので、この世界流に話をわかりやすく捻じ曲げて伝える。


『ふむ、ヒジリの方がしっくりくる』


「じゃあ、今日からお前は「ヒジリ」に決まりだ!」


『では主殿をショウと呼ぼう』


 頭の上に大きなクエスチョンを表示して首を傾げる。なぜ彼にショウと呼ばれるのか、これ以上名前が増えるのは御免だ。さっきの嫌な予感フラグを回収中らしいが、状況が理解できなかった。


「なんで?」


『我も特別な呼び方とやらが欲しい』


「必要?」


『ふむ』


「…前向きに検討します」


 膝の上にリアムがいるため、黒豹ヒジリが肩の上に顎を乗せる。そのままぺろりと舐められたが、耳を食べられるような感覚に襲われた。あの背筋がぞくぞくする感じだ。恐怖に近いんだけど、なんか気持ちいい。いや、Mじゃないぞ!? 絶対にこれはフラグじゃないからな!!






「陛下、そろそろ部屋にお戻りください」


「そうだな。行くぞ、セイ」


 騎士の言葉はもっともだ。逆に話が終わるまで、こんな屋外の庭に待たせてしまって申し訳ない。夕方の西の自治領から移動した中央の宮殿は朝方。ようやく午前中の穏やかな日差しが降り注ぐが、今日は残念ながら風が強かった。


 有体に言えば寒い。風が無ければ暖かいかもしれないが、ちょっと肌寒かった。考えてみればオレの服、あちこち破れてるしな。


 先に立ち上がったリアムが笑顔で手を差し伸べてくれる。じわじわ痺れる足に苦笑いしながらリアムの手を取った。

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