21.呼ばれぬ客の想定外(6)

 すべすべした美しい手に、黒や赤で汚れた手で触れるのは気が引けるが、手を取らないとリアムの機嫌を損ねてしまう。あんなに心配してくれた友人へむくいたいと思うから、素直に手を取った。だけど、リアムの重さを受け止めた僅かな時間で痺れた足は、ちょっと情けない。


 もっと鍛えたら平気になるだろうか。いやそこまで鍛えたら、兵器になりそうな気がした。うっかりした発言がフラグになって、シフェルの地獄の特訓を呼び寄せそうなので、お口にチャックだ。


 それより、リアムの「セイ」という愛称は二人だけの特別な呼び方だと考えていたのだが、普段使いになったらしい。小鹿のように足がプルプルしないよう堪えるオレの努力を無にするように、ヒジリが鼻先で膝裏を押した。


 これは――伝説(?)の技、ひざかっくん!! 


「あっ」


 間抜けな声が漏れた瞬間、転がっていた。ちなみに手を繋いだリアムが離さなかったため、前に転んだオレがリアムを押し倒しそうになる。もちろんリアムにケガをさせないように受身を取って、背中を下に落ちたのだが……。


「陛下っ!」


「キヨ?」


 あちこちから声があがり、あっという間に抱き起こされた。ついでにジャックに肩へ担がれてしまう。見た目の年齢が少年なので、24歳にして二人とも子供扱いだった。


「まだ疲れてるんだろう。歩かなくていいさ」


 ノアも頷いている。騎士に抱き上げられたリアムは不満そうだが、我慢するらしい。足元のヒジリがジャックのズボンを咥えて引っ張った。


「ん? どうした」


 あまり怖がっていないのは、ジャックの順応能力が高いからだ。オレを最初に拾ったときも、彼が一番最初に理解を示していた。傭兵だからなのか、彼自身の資質なのかはわからない。

 

『我が乗せていく』


「……そうか?」


 困惑顔ながらも、ジャックはオレをヒジリの背に下ろした。しっとりした毛皮は艶があって美しい。中に手を突っ込むと、ふわふわしていた。ぎゅっと抱きついたオレを乗せたヒジリは満足そうだ。


 視線の先で羨ましそうなリアムを見つけて手を伸ばす。


「一緒に乗ろうぜ。平気だろ? ヒジリ」


『よかろう』


 なんだろう、この上から目線の獣。オレが主だよな、普通は「承知しました」とか言うと思うが……まあ、実家の猫も「この下僕め、飼わせてやってるのだ、ありがたく思え」みたいな態度だったから、猫科はこれが標準かもしれない。


「頼むな」


 首筋をくしゃくしゃ掻いてやれば、嬉しそうに尻尾が揺れた。言葉より尻尾の方が正直です、はい。


 騎士が迷いながら後ろにリアムを乗せる。皇帝の指示に逆らえなかったのだろう。心配そうな顔で隣を歩く彼は、何かあれば抜刀できるように準備していた。


 バイクのタンデムさながら背にリアムの温もりを感じながら、オレ達は宮殿のアーチをくぐった。

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