21.呼ばれぬ客の想定外(4)

「オレはキヨヒト。皆はキヨって呼んでる」


『…セイというのは?』


 後ろから抱き着いているリアムに目線を向けながら、黒豹が大きく尻尾を地に叩きつける。ぱしんと音がしても、リアムはけろりとしていた。


「リアム専用のオレの呼び名で、他の奴は使わない」


『誓約による制約か?』


「違う、な……ほら、リアムは皇帝陛下じゃん。だからリアムが使う愛称を、他の人は勝手に真似しないだけ」


 表現に困って地位のせいにしてみた。友達同士のちょっとしたあだ名なんだが、この世界でそういう習慣はないと学んでいるので、説明に困ってしまう。前世界の外国人が使う愛称のような呼び方は存在するが、子供のあだ名は存在しなかった。


 確かに「○○ちゃん」が「○△たん」になったりするのは、方程式も無いし脈絡がない。なかなか浸透しない文化だろう。オレにとってはどちらでもいいが……すごく嫌な予感がする。


 黒豹がぱたぱた尻尾を揺らした。


「それで名前は?」


『名前は契約主あるじがつけるものだ』


 後ろからリアムが回り込んで、座ったオレの膝にちょこんと乗る。小柄なので重くないが、顔のあたりで触れる黒髪が擽ったかった。ついでに、すごくいい香りがする。


「オレが付けるの?」


『そうだ』


 リアムの黒髪の匂いをかぎながら現実逃避していたオレだが、最後通牒のように突きつけられた現実に眉を顰めた。


 正直、オレのネーミングセンスは酷い。そりゃもう、かつて中学校の友人が呆れて頭を抱えたくらい酷かった。ペットの犬に「いぬ」と名付けようとしたレベルだ。


「黒豹……か」


 かつてのゲームネームだったDDは、イケメンの友人が付けてくれたのだが何かの略だったな。確か……ダークなんたら……ダメだ、覚えてないわ。そういう略した頭文字の方が言い逃れが出来ていいかも知れない。


「えっと…うーんと」


 唸りながら、黒豹をそのまま英語にするとブラックパンサー。あれ、パンサーでいいんだよな? レパードも豹じゃね? でもピンクパンサーって豹だったよな。混乱しながら頭文字を抜いたらBP……どっかの国の石油会社みたいになったぞ。これはマズイ。


 レパードって豹に自動翻訳されるんだろうか。だとしたら「豹に豹って名づけるなんてバカだ」と思われかねない。ライオンなら「レオ」で片付いたのに、残念だ。


「ところで聖獣って性別あるの?」


『ない』

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