281.血筋がどうしたって?(2)

「ドキドキする」


 すっかり立ち直ったリアムも少し興奮気味だ。日本人会の伯爵令嬢パウラことアイリに、異世界のざまぁ小説を聞かせてもらったらしい。最近仲が良くて妬けるくらいだけど、そのざまぁ展開がお気に召したそうだ。ならば披露して楽しませるのが、婚約者としての義務、いや権利だな。


「血筋? それって、そんなに大事か?」


「大切に決まっている! 血筋で聖獣様との契約が継続されているのだ」


「ふーん。でもオレ、5匹の聖獣すべてと契約してるけど……誰とも血が繋がってないぞ」


『主殿との契約は、皇族との契約より上位ぞ』


 いいタイミングでヒジリが口を挟む。悔しそうに唇を噛む姿が、いと哀れなり……あれ? 使い方が違う。いとをかし、だっけ? 古文は成績底辺だったな。余計なことに思考が逃げていく。正直、この男じゃ物足りなかった。これじゃ、立派なざまぁ展開ができない。


「下賤な生まれ育ちを自白するとは」


「下賤? あのさ、オレがコウコに命じて北の国の契約を解除したとする。あんた、明日から平民だぞ。それと自分の国の民を含め、平民を下賤と呼ぶのは品位がないな」


「あんただと?!」


 え? あれだけのセリフで、そこに引っかかるの? 自分の呼ばれ方より、契約解除とかじゃなくて……?? 何なの、バカなの? あ、バカなのか。命運を握る相手に叫んで喧嘩売るなんて、動物以下だった。しかも聖獣ヒジリの言葉を聞き流しやがったぞ。


「シン兄様、処分していい?」


「聖獣殿が認めれば、処分するのが当然だろう」


 王家の正当な血筋とやらがどこまで濃いのか知らんが、王位継承権がレイルより下って時点で結果は出ていた。彼は不要だ。この国にも……シンの治世にも。


『主、僕に頂戴』


 わくわくうきうき、獲物を見つけた猫の顔で強請るブラウだが、その前に権利を主張する聖獣がいた。


『え? 僕にも分けてください。ずるいです』


 遊び道具なら分けてくれと言い出したマロンが、ポニー姿で足踏みする。あれか、子どもが地団駄踏む感じ。なんとも可愛くて「いいぞ」と許したくなるじゃないか。


『あたくしが貰うわ。マロンも手伝って』


 上手にマロンの気持ちを汲んだコウコがそう言うなら、任せるのが一番だろう。彼女のいう通り、北の国は彼女の領域だからね。


「いいよ」


 大喜びで巨大化したコウコが、びびって頭を抱える男を外へ跳ね飛ばした。あの尻尾でのワンパン、すごい威力だぞ。シフェルと顔を見合わせてしまった。あれは敵わない。逆に目を輝かせて「さすがコウコ様」と興奮するベルナルド、お前、本当にコウコと相性いいな。

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