281.血筋がどうしたって?(3)

「あれで終わりか?」


 残念そうなリアムの呟きに、オレより早く反応した奴がいた。謁見の間にいる貴族はがくぶるで立てなくなっているが、外から乱入した奴は事情を知らない。ご新規の貴族は、自ら大声で名乗った。


「北の王家を支えるアホラ公爵が参りましたぞ、陛下。この無礼な輩は私が処分いたしますゆえ、ご安心ください」


 額を押さえる義父が、体内全てを絞り出したかと思う巨大な溜め息をつく。ついでに肩が落ちた。あれれ? もしかしてこっちが本命か。


「アホな公爵?」


 煽るには、貴族ご自慢の家名を弄るのが早い。とにかく家柄と血筋しか誇る場所がないんだから。強いて言えば、ご先祖様のおかげで金に困ってなくて、美人を嫁にもらってきた家系なので顔はいい方か。その分だけ頭を使わないから、とにかく馬鹿ばっかり。


 国王が義理の家族との対面をするのに、口を挟んだら1アウト。続いて聖獣や他国の要人がいるのに気づかないので2アウト。さらに呼ばれていなくても遅刻してきたのも減点で、3アウトチェンジだ。野球は詳しくないが、アウト3回で終わりくらいの知識はあるぞ。


「アホではない! 王家の姫君を妻にもつ我がアホラ家を、なんと心得る!」


「なんとも? だって、オレ第二王子だし」


 オレより地位が低いよね。淡々と突きつけた事実に、おっさんの顎が落ちた。漫画みたいな表情、初めて見た。すげぇ、本当に顎が外れた感じになるんだな。


「貴様など知らん!」


「知らなくていいよ、オレもあんたを覚えなくて済む」


 腕を組んだリアムが、きらきらした眼差しでオレを見ている。負けられない戦いは本当にあった! リアムの尊敬とざまぁを見たい夢を叶えるため、オレの粗末な脳はフル回転だ。


「陛下、このような無礼な輩は……」


「アホラ公爵、キヨヒトは我が息子だ。無礼が過ぎるぞ」


 オレに言っても通じないと、国王に向き直ったところで嗜められてしまった。そこで諦めないでくれ。北の国の貴族は根性ねえよ。ざまぁする前に潰れてくれるな。リアムの前でいいカッコするためなら、オレは敵にも塩を贈るぞ。プレゼント、フォーユーだ!!


「パパ、黙ってて」


 ぴしゃりと言われたショックと、庇ったはずなのに? の疑問。それを上回るパワーワード「パパ」の喜びに、義父は石像のように固まった。満面の笑みで貝のように口を閉ざす。完璧だ。


「なるほど。陛下を誑かしたのは間違いなさそうだな」


 あれ? おっさんが突然理知的な発言しだした。これは……期待しちゃうじゃん! リアムと視線を合わせ、お互いに笑顔で頷き合った。後ろでシフェルのぼやきが聞こえるが、そこはスルーしてやった。

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