248.新しく作ればいいじゃん(2)

 じっとオレを見た後、レイルはくしゃっと顔を歪めて笑う。何故だろう、レイルが泣いたのかと思った。


「お前が死なないようにサポートしてやる。その分、しっかり払ってもらうぞ? なんたって、出世払いだからな」


 前にそんな話をした。出世払いでお願いって……今のオレは全部払えるけど、このまま貸しにしておく。レイルはそう言った。


 出世払いだから、出世前にオレが死なないよう守る――そんな理由をこじ付けたんだ。不器用だよな、従兄弟で友人だから守るでいいのにさ。無理に悪ぶって理由つけて、誤解される善人だ。


「いいぜ。偉くなったオレに平伏するレイルの頭に、大量の金貨を投げつけてやるよ」


 わざと軽口叩いて、笑い合った。オレ、この世界に来れて本当によかった。恋人のリアム、親友のレイル。気兼ねなく色々言い合える仲間も出来た。前の世界じゃ、表面だけの薄っぺらい関係を友情だと勘違いしてたんだ。そのくせ裏切られたと落ち込んで、オレだってちゃんと返したことないのにな。


「皇帝陛下を計画がある。先代の頃の記録はすべて封印したが、当時少女だった帝妹を知る老女が喋った。孫を人質に取られてな。皇帝陛下が6歳になるまで皇室に仕えていた侍女だ」


 兄がいた頃、リアムは少女姿だった。妹として、女性として生きることに問題はなかったのだ。後に兄が死んで、皇位を継承する際に男装した。


 病弱だったため、女児を装って健康祈願をしたことにして――その裏事情を探るため、老女は脅されたのか。昔、日本でも子供のうちは女児の姿をさせる跡継ぎの話を、時代劇で見たっけ。思い出しながら、事情を飲み込んだ。脅された侍女は後回しだ。


「企んでる連中のリストだ。で、どうする? 下手な嘘は使えないぞ」


「わかってる」


 リストにさっと目を通し、取り出した宝石箱に入れて収納へしまった。ここなら誰かに奪われる可能性が極めて低い。宝石箱を人前で開けることは滅多にないからな。リアムにもらった大切な箱だ。彼女の秘密を入れるのに相応しかった。


 にしても、参ったな。レイルの言う通り、下手な嘘をつくと後が困る。


 皇帝陛下はいずれ、女帝陛下になる予定だ。だから女じゃないと言えば、それは後日揚げ足を取られるだろう。少年姿で積んだ実績を否定されかねない。あれは影武者だったと言われ、彼女の実力を否定されれば……前例の記録がない女帝は却下される。


 これは最悪のシナリオで、他に切り抜ける方法を考えるしかない。何かいい事例がなかったか?

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