318.三権分立なんて幻想だ(2)
現実逃避してる場合じゃない。よくテレビで観た「うちの子がそんな酷いことをするなんて」と嘆く犯罪者の親の心境だった。実際のところ犯罪者は公爵家とやらなのだが。
「そもそも、あの爆弾が返されたのは自業自得だ。
にやりと笑うレイルは、北の王家で一番悪知恵が働く。言われてみたらその通りだった。
もし爆弾が王家に返されたと言えば、どこへ仕掛けたのかと追及される。自分達のではないと主張したら、偶然テロに遭っただけ、として処理されるのが道理だった。持ち主だと名乗り出るわけにいかない以上、爆発は偶然で片付けるしかない。
運が悪かった、いや因果応報ってこの場面で使うのかも。感心していると、焼け焦げた馬車から老夫妻が引き摺り出された。喚き散らしている様子から、大きなケガはなさそうだ。
「元気だなぁ」
『骨の一本くらい折れるかと思ったが、悪運の強い奴らだ』
ヒジリが不満そうに呟くものの、馬に被害が出ないように後部席へ返したらしい。ところが、ちょうど馬車がついて降りようとしていた夫妻は前方へ移動しており、体を打ち付ける程度のケガで済んだ。その辺は「ヒジリ、調整したんじゃないの?」と思ったが、口にしないのが主人の優しさだろう。
「ご苦労さん、ヒジリはやっぱり出来る聖獣だ」
ぐりぐりと撫でれば、ご機嫌で喉を鳴らす。オペラ会場にも使われる広間を開放したため、席の形がぐるりと扇形だった。上部にある小部屋は全部で3つあり、今回は中央のこの部屋のみ使用する。お陰で足元に大量の貴族や罪人が見えた。
「これ、あれを言いたくなるよな」
『見ろ、人がゴミのようだ』
打てば響くブラウと笑い合い、さっさと席に陣取った。席といっても、観覧席のような硬い感じじゃない。柔らかいソファーベッドのような平らな椅子だった。しかも中央には山盛りのクッションが用意され、快適仕様だ。
「豪勢だね」
「ああ、聖獣が集まってるからな。特別に用意させたと聞いてる」
レイルが苦笑いして説明した。その間にシンはお茶の道具を広げ、ヴィオラはお菓子を侍女に運ばせる。軽食も含めると、かなりの量だ。
「さあ、聖獣殿。好きな物をお食べくださいな」
ヴィオラがにっこり笑い、聖獣に専属メイドがついた。もちろんこの部屋でのみ専属だ。欲しがる飲み物や食べ物を取り分ける係だった。
至れり尽くせり。オレが裁判に集中できるよう取り計らった裁判長の思惑通りだ。というか、国王陛下なのに裁判長していいのかよ。
「お、始まるぞ」
期待の声をあげるレイルは、手元の資料をばさっとオレの前に置いた。先日地下牢で覗いた、各貴族家の悪さの証拠だった。
「よし、順番にやっちゃって!」
「パパに任せろ」
ん? 下に並んだ5人の裁判官の中央に座った国王陛下のお声が聞こえたんだけど?? 足元ににょきっと生えた金属製の管を指差された。
「これが声の交信を可能にしている。我が国に数百年前に降りた異世界人が伝えた技術だ」
「えっと、思い出せそう。ほら、潜水艦とかで通信に使うやつ」
名前が出てこない。後でじいやに教えてもらおう。
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