27.自己紹介は大切ですが、手合わせですか?(3)

 そんなに驚くことか。と思ったら、隣のリアムが「そうであろう、余も驚いた」と同意している。もしかして、レイルってケチで有名なんだろうか。オレがリラの魔力で気絶してたときも、無視して銃の回収した奴だから、その薄情さで知られてるのかも。


「撃ち方はジャックに聞いたけど」


「ジャック……雷神の?」


「そう。そういや二つ名で風神っていないの?」


 軽い気持ちで振ってみる。すると驚いた顔をしたリアムとスレヴィが身を乗り出す。


「どこでその二つ名を!?」


「極秘事項だぞ!」


「えっと?」


 何かヤバイ質問をしたみたいだ。どこから情報が漏れたと思案するスレヴィをよそに、リアムは別方面で心配しているようだった。


「まさか、奴に何かされたのか?」


 それなら叱ってやろう。言葉にされなかった続きを読み取ってしまい、複雑な心境になる。真面目なお父さんキャラであるジャックと、正反対のタイプの可能性が出てきた。


「オレのいた世界だと、雷神と風神は対なんだよね。だからジャックが雷神なら、風神の名前の人もいるのかな? と軽い気持ちで聞いただけで」


 会った事もなければ何かされたこともない。説明を終えると、とりあえず紅茶を飲む。半分ほど飲んだところで、ヒジリが顎を膝の上に乗せてきた。


「ん? どした?」


 ぺろぺろと口周りを舐めている仕草は、食べ物を強請る仕草のひとつだ。言葉が話せるんだから、口で伝えればいいのに。思いながら目の前のスコーンを2つほど手に持って差し出した。1つ目は普通に食べたのに、どうして2つ目でオレの手を噛む?


「っ…ヒジリ」


『何だ? 主殿』


「人の手を噛んじゃダメだろ」


「ッ! セイ! 噛まれたのか!?」


「いや、ちょっとだけ。一応ヒジリが治してくれるし」


 たいしたことはないと手を振れば、驚きすぎて立ったリアムがゆっくり腰掛けた。見れば、テーブルの向こう側で同じようにスレヴィが立ち上がっている。


『主殿、聖獣に噛まれるのは栄誉ぞ』


「変なギャグ言ってんじゃないよ、いくらオレが異世界人でも騙されるわけないだろ」


 右手でチョップをくれてやる。確か猫科は鼻の上が急所だったよな。狙って叩くと、鼻を押さえて蹲るヒジリが唸る。慌てたスレヴィが仲裁に入った。


「いや、聖獣殿のお話は本当だ。聖獣が噛んだ場所は聖痕と呼ばれる、名誉の傷痕である」


「そうだぞ、余もちょっとなら噛まれたい」


 何そのドM発言とドMなシステム……知らなかったけど、もうすでに3回は噛まれたぞ。すべてヒジリに餌を与えたときだから、単にがっついて噛まれたとしか認識してなかった。とりあえず、さっきチョップした鼻のあたりを撫でてやる。


「あとでオレだけじゃなくて、リアムも噛んでやってくれ」


「私はキヨヒト殿と手合わせを願いたい」

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