258.あれ、1人多くね?(2)

 こういう怪談あったよ。暗い部屋で怪談で盛り上がる部屋で、1人増えてるんだけど全員知ってる人で、誰が増えたのか分からないってやつ。


「いや合っとるよ、わたしゃ、フランス人だったけぇ」


 トミさん、まさかのフランス人疑惑! いや、本人が言うならフランス人確定だけどさ。え? その訛り、日本の田舎の婆さんじゃないの!? つうか、なんで日本人会に混じってるんだよ。


「キヨ、全部声に出てるぞ」


 膝にしがみついたリアムが呼び方を修正しながら首をかしげる。しっかり自分の存在をアピールしてくるあたり、侮れん。政の中心地で苦労しただけのことはある。ウルスラが補佐に入ってシフェルが守ってきたんだから、このくらいの芸当は朝飯前か。


「えっと、トミさんを除いた4人とオレで5人。トミさんは日本を知ってたの?」


「行ったことはないが、黄金の国じゃったか」


「トミさんが死んだ時って西暦でいうと」


「1800年代の半ばじゃ」


 中世頃のお人でしたわ。火縄くすぶるフランス革命……1789年か。その後だな。


「1850年頃って何があったっけ?」


「ああ、ナポレオンがいた頃だよ」


 ナポレオンか! 白馬に乗ってロシアに攻め込む山脈の途中絵画が有名だ。嫁に浮気されたっけ? あれ? まあいいや。


「ナポレオンとは有名人か?」


 こっそり聞いてくるリアムに、小声で「向こうの世界では名前くらい知ってる過去の有名人かな」と返す。耳元で囁きあうのって、恋人っぽさがあっていい。にやにやしちゃう口元を手で覆い隠した。


「なんか厭らしい」


 愛梨ちゃんに「このこのぉ」と突っ込まれながらも、真顔を作る。しかし呼び名がたくさんあって面倒だな。


「ところで、キヨ君? の本名って何」


「あ、それ知りたい」


「ベルナルド。言っちゃって」


 少し離れてたところで、大人しくお座りして待つ忠犬ベルナルドに声をかけた。オレだって覚えてないんだぜ? そこは彼の出番だろう。


「キヨヒト・リラエル・エミリアス・ラ・シュタインフェルト殿下にあらせられます」


「というわけだ」


 えっへんと威張ってみても、自分の名前を覚えてないのが丸わかりだ。苦笑いした周囲をよそに、愛梨だけは大きく首を傾げた。


「あら。お名前がまた変わると聞いたけど」


 貴族令嬢らしい言い回しだが、そういえば皇家のご養子になるとか……言われたな。


「正確にはキヨヒト・リラエル・セイ・エミリアス・ラ・シュタインフェルトだが、近く、キヨヒト・リラエル・セイ・エミリアス・ラ・コンセールジェリンになる」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る