179.革命の大義は我にあり(2)
門の上部が急速に近づいて、危うく頭をぶつけるところだった。というか、ヒジリの大きさって、こんなだったんだ? 初めて知った。考えてみれば、ブラウも猫にしては大きい。龍のコウコやドラゴンのスノーは大きいものと思い込んでたけど、ヒジリが小さい理由なんてなかった。
もしかしてマロンも大きくなるんだろうか。過った疑問を確認するより早く、ヒジリが厳かな口調で語りかける。
『この世界の聖獣5匹を統べる我が主にひれ伏すが良い。そなたらの開放の時は近い。武器を持って戦え、我らに従え』
「聖獣様がお味方してくださるのか」
「勝てるぞ」
「傲慢な王族を倒せ!」
「横暴な貴族共を追い出せ!」
「おれ達の国を取り戻すぞ」
騒ぎは一瞬で沸き起こった。よほど我慢させられて来たのだろう。家に飛び込んだ男は斧を手に気合を入れ、若者は近くの衛兵に殴りかかって剣を奪った。
支配階級が最も恐れる事態だった。数の暴力は、単体の能力を優に凌ぐ。どれだけ優秀な騎士が戦おうと、途切れない多数の国民を相手に押し切られる。
歴史の教科書で習った農民一揆ってやつだ。違うのは彼らがひっくり返した政権は、その後の処罰に繋がらないという現実だけ。一揆首謀者は要求の結果によらず、全員殺されたけど。
この反乱はオレが力づくで押し通してやる。戦った国民を死なせない。強く願い、彼らを守るための盾を結界の形で作り出した。ドーム型の薄い緑の膜は、人の出入りは自由だ。しかし武器や弾丸を弾くよう願いを込めた。
都合の良い結界はオレのお得意だ。
「聖獣の加護である。この結界は攻撃を防ぐが、内側からの反撃は可能だ」
ブラウの風を使って拡声したオレの叫びに、国民達は高揚した様子で城へ歩き出した。ここは国王がいる王都ではない。王子が住む城をまず落とすのがこの場の目的だった。
王都の城は、王都の住民が戦って落とせば良い。現地で戦士を調達する方法は卑怯だが、昔からある手法だった。
「いけ! 敵はあの城にあり」
『主、それって本能寺じゃない?』
ぼそっとブラウが指摘するが、仕方ないだろ。カッコいい台詞を思いつけなかったんだから。それに一度は使ってみたいと思ってたんだ。サバゲーだと無理があって使えなかったけど。
にやりと笑ったオレの後ろから、ノアの声がかかった。
「キヨ、お茶だ!」
振り向くと、水筒が投げられた。ヒジリの上で器用に受け取り、礼を言って口をつける。確かに喉が乾いていた。良いタイミングだ。さすがはオカン。水分補給を忘れると気持ち悪くなるから、有り難く受け取った。
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