228.応急処置って大切(1)

 急ぎでなけりゃ、レイルやジャックだって孤児を無視しなかっただろう。大人だから優先する順位を間違えたりしない。正しいことだよ。


 でもオレは子供だからね。異世界人だから。それを理由に好き勝手させてもらうよ。


「ジャック、この辺に空き家ない?」


「これはダミーだからいいぞ」


 壊すよと言ってないのに、察したらしい。領主の館を守るために、幾つかのダミー住宅がある。あっさりと情報を明かしたジャックに、レイルが苦笑いした。情報屋がいるのに、そんな秘匿情報を話すと一族で村八されるぞ。あ、すでに出奔済みだから構わないのか。


 指差されたのは、左側の小ぶりな2軒の家だった。見た目は誰か住んでそうな雰囲気だが、よく見ると中は何もない。外側だけ装ったハリボテのようだった。


 領主一族の許可があるので、遠慮なく壊させてもらおう。でも屋根があると使えるから、ひとまず入り口の鍵を破壊する。中は予想通りのがらんどうだった。2階建てなのに、屋根の梁まですとんと見通せる。田舎の納屋みたいだ。


「おいで」


 パンを齧る子供を手招きして中に入れた。用心深い子に、肉を見せて呼び込む。


「入ったらあげる」


 それでも入り口で立ち止まるから、以前に痛い目に遭ったのかな。野営用のシートを並べて、持っている食料を積み始めた。見たことがない量の食べ物に、子供は釣られて足を踏み入れる。白いパンに目を見開き、手に取ったが噛み付くまえに止まった。


「食べていいよ、友達も一緒に連れておいで。孤児だろ? お腹いっぱい食べろ」


 言いながら手抜きだが魔法で沸騰させた鍋のお湯に、肉と野菜をぶち込む。それから魔法でラップして沸騰のイメージ。レンチンは鍋が金属だからやめておいた。ばちっと音がしたら怖い。


 迷ったが、胃に優しいような気がして味噌味にする。味噌汁、いや豚汁? 肉が兎だから……兎汁か。混乱しながら味見して、頷いて器に盛った。作業の間に声をかけたのか、レイルが子供達を中に押し込んでいる。ジャックやベルナルドも子供を集めて連れてきた。


 味噌汁もどきを渡し、パンを奪い合わないよう言い聞かせる。たくさんあるのだと知れば、彼らも大人しく食べ始めた。


「この場は俺がいるから、先に行ってこい」


 レイルがぐしゃぐしゃと赤毛をかき上げる。面倒そうに居残り役に手を挙げるが、知ってるぞ。レイルは子供に優しいんだ。安心して任せられると言えば、うるさいと小突かれた。

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