264.劇は盛り上げないと(2)

 むっとした顔のとろり蒟蒻は何なの? リアムばりの美少女か、カミサマの美少年補正がついたオレじゃないと、そんな顔は可愛くないから。そもそも貴族社会ってのは根回しと狡賢さで成り立つのに、何も手を回してないって……馬鹿か。自殺志願なら勝手にやってくれ。


「……っ、誰も認めておらん」


 絞り出した言い訳に、リアムが玉座に肘をついた。不快だぞと遠回しに演出するつもりだろう。足まで組んでる。すらりとした足に涎が出そうだけど、今日は皇帝陛下の正装だから男装なんだよね。これで美少女がミニスカートだったら……じゅるり。涎で脱水症状になる自信あるぜ。ただし、リアムに限る。


「認めてない? 誰も? 皇帝陛下のお言葉を、この中央の国の貴族が?」


 嫌味ったらしく、刻んで問いかける。ぐっと変な声で喉を詰まらせた男に、オレのイジメっ子センサーは全開だ。これはもう畳み掛ける? でも気になるんだよな。仮にも公爵の地位にいる男が馬鹿なのは置いといて、皇帝陛下に逆らうほどの度胸はないと思う。


 つまり……誰か後ろにいるよね。ラノベでよくある伏線は回収しないと、後で爆発するからな。


「皇帝陛下に申し上げる。我が弟は北の第二王子という地位にあり、陛下の庇護下にあると認識していましたが、相違ありませぬか?」


 シンがきりりとした顔で問いかける。うっかり首を横に振ったら「じゃあ連れ帰ります」とウキウキで、オレを抱っこして逃げる気だろう。礼儀正しく問いかけているが、遠回しに「この馬鹿の暴走を許す気はない」と宣言した。


「相違ない。此度は心配をかけたな」


 皇帝陛下としてのお言葉だ。皇帝陛下の庇護下という言い回しは、皇族分家のエミリアスであることを意味する。その上、皇帝個人のお気に入りという含みも持たせた。意外と高度な言い回しなのだ。


 にこっと笑ったオレに、リアムは視線を向けた。彼女の口元がきゅっと引き締められて、キスを飛ばされた気分になる。


「ですが、この者は生まれが卑しく……王族と言っても養子ではございませんか。異世界人など獣以下ですぞ」


「うん。なるほど……獣以下……うん」


 誰かが余計な言葉を吐く前に、オレは笑顔で相槌を打った。割といい方向へ破裂してくれてる。味方の援護で誤爆するのを避けるオレは、頷きながら手を伸ばした。


「ヒジリ、ブラウ、コウコ」


 黒豹が歩み寄り、青猫がオレの肩に飛び乗った。ベルナルドの腕に絡んだ赤龍がするするとオレの首に絡み付く。


 ちょっと過剰戦力かな。


「スノー、マロン」


 頬擦りする馬の顔を撫でてやり、飛びつく白いチビドラゴンを腹の前で抱っこした。


「獣って聖獣のこと? まさかとは思うけど、オレが彼らの主人だって知らないのかな。貴族なのに知らなかったら、いい恥さらしだね」


 情報に疎いと笑われて頷くわけにいかない。だが否定すれば、聖獣5匹の主人に仇を成す存在として認識される。さあ、どっちを選ぶ?

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