264.劇は盛り上げないと(3)
「き、貴様などに」
「うーん、そのセリフは飽きた」
一言で切り捨てる。言葉を遮られるなんて、公爵閣下には初めての経験じゃない? よかったじゃん、いろいろ経験出来て。顔を赤くしたり青くしたり忙しいけど、オレとしては黒幕を引き出したいわけだ。あんたと遊んでる時間は勿体ないんだよね。
「聖獣5匹と契約した、その意味がわかるかな。オレが命じれば、彼らはすべての契約を解除する――何が起きると思う?」
「脅す気かっ!」
トゥーリ公爵の発言に、周囲の顔色が目に見えて悪くなった。それはそうだろう。オレの機嫌を損ねたら、領地どころか国土がすべて消失する可能性があった。それをオレ自身が口にし、聖獣達が否定しない。つまり現実にあり得る話だという意味だ。
ここまで焚き付けても理解しない男は放置して、黒幕がそろそろ顔を見せてくれないかな……と期待したが。
「エミリアス侯爵閣下、どうかお許しを」
「聖獣様に楯突く気はございません」
騒いだのは黒幕より、事情を知らない貴族だった。まあ、ここまで脅されたら自分の足元が不安になるよ。わかるけど、今は邪魔だ。睨みつけると慌てて口を噤んだ。
「セイ、そこまでにしてやってくれぬか」
「やだ」
皇帝陛下のお取りなしに、一言で却下を伝える。だって、これはお芝居だからね。寛大な皇帝陛下の演出にもなるし。オレは多少悪く言われても今さらだから構わないらしい。ああ、そうさ。リアムのためなら構わないけど、この作戦を立てたのがシフェルだってのは気に食わん。
ベルナルドはずっと剣の柄を握って離さない。シンは疑いの態度を隠そうとせず、騒ぐ貴族を睨みつけていた。ここで動くのはウルスラか、レイル。ちらっと目配せしたオレに、レイルがにやっと笑った。
「北の国の王族を軽んじるのであれば、皇族分家であろうと連れ帰る……キヨは大切な家族であり、偉大な聖獣を従える権力者だ。安全を図りたい、我が国の立場をご理解いただきたい」
ん? 打ち合わせと違う方向へ話が向かってるんだけど……そう思ったのは、オレだけじゃなかった。顔を見合わせたウルスラとシフェルも、想定外だと訴えている。誰より焦ったのは、リアムだった。組んでいた足を下ろして、立ち上がる。
玉座におわす皇帝陛下が立ち上がるとどうなるか。オレもこの場で初めて知った。王族を除く全ての貴族が一斉に膝をついて頭を下げる。ざっと波が引くように音が消えて、沈黙が落ちた。
「ならん! セイは余のものだ」
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