24.カミサマって仕事してたんだ…(3)

 いや、そうじゃなくて。オレが受け取るのを躊躇ったのは、単に「貴重な本だったらマズイな」程度の感覚であって、リボンが付いてないから受け取らなかったわけじゃない。否定しようとしたオレの前で、リアムは自分の髪を結んでいた飾り紐を解いて、くるりと巻いて結んだ。


「どうぞ」


「あ、ありがとう」


 リボンが欲しかったんじゃないが、否定してリアムの髪紐を返すのは嫌だ。飾り紐欲しさに受け取ってしまう。瞳の色に合わせたのか、美しい青い紐を手で撫でる。


 どうしよう、嬉しいかも。


「この世界の発展のほとんどは、異世界人の知識によるものだ」


 分厚い本の後半を開き直したリアムが指先で指し示す。それは新たな知識が持ち込まれた時期を記した年表だった。最初に銃の技術が持ち込まれ、次に煉瓦作り職人、パン職人、それからドレスの縫製や生地の専門家がきて、ここ数百年だとダイナマイトと火薬、ガラス作りか。


 ずいぶんと順番がバラバラだな。技術の年代順に召喚してるわけじゃないのか。


「これは大きな技術革新のみで、他の技術も持ち込まれている」


 確かに溶かした煉瓦のビルの造り方は現代建築だし、この宮殿は中世っぽい。赤い絨毯敷くあたりはヨーロッパ系だよな。逆に庭で寝転んでるときの絨毯はペルシャ風だった。人種も年代もバラバラに呼びつけたのがよく分かる。


「うーん、なんていうか。順番がおかしいよな」


「そうか?」


『世に足りぬものを喚ぶからだろう』


 達観したようなヒジリの欠伸交じりの呟きに、答えが見えた。魔獣を退治するために銃を作れる人間を転移したら、すぐに火薬が必要となった。慌てて火薬を作れる人を呼んで、ついでにダイナマイトが出来る。必要に迫られて異世界転移させるから、こうなってしまうのだ。


 カミサマって仕事が出来るのか、無能なのか。紙一重の存在じゃね?


 ちょっと脳裏に浮かぶカミサマの笑顔が恐怖の色を滲ませているので、これ以上ディスるのはやめよう。ついでに、カミサマが勝手に脳内に出演するのをやめてもらいたい。


 オレから見て、この世界がちぐはぐな印象を与えるのは――思いつくままに足りない存在を異世界から引っ張ってくるカミサマの影響なのは間違いなかった。銃を作るのに必要な付属品(製鉄技術や火薬など)を考えずに、銃の構造を知る人間だけを連れてきてしまうのが原因だ。


 この世界の真理に近い部分を知ってしまったことで、オレはある悟りを開きつつあった。


 ――考えるより、目の前の出来事をそのまま受けれよう。その方が生きやすい。

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