第20章 権力者の妻を舐めるなよ!?

115.法律を守る側ではなく作る側でした(1)

 屋外に勝手に作った平らな地面とドーム、その中での宴会状況を根掘り葉掘り聞かれながらお茶を飲んだオレは、リアムと一緒に図書室にいた。法律関係の書物を積み上げて、片っ端から頭に流し込んでいく。


 意外だろうが暗記は得意だ。一度読んだ本の内容も結構覚えてるので、記憶力は高い方だと思う。ただ……やる気がないだけ。実は高校入るくらいまで暗記能力のみで切り抜けたオレだが、高校生の後半から応用力を求められるようになる。そこで脱落したわけだ。


 暗記というメッキを重ねたオレの知識は、応用が利かなくて役立たなかった。実際社会に出たら基本も大事だが、応用力やコミュ力で切り抜けるものだ。そういう意味で、社会に馴染めなかったかも。


「セイは読むのが早い」


 感心した様子で呟くリアムだが、図書館なのにお茶を持ち込んでいいのか? この宮殿の本がすべて皇族の物だとしたら、本人が許可したら許されるのかも知れない。管理人が嫌そうな顔を……してなかった。うん、皇帝陛下に逆らわないのは賢い選択だ。


 個人的に本を読むときは紅茶より珈琲派のオレだが、今のところリアムは紅茶派らしい。綺麗に透き通った砂糖菓子を摘まみ、彼女は隣でときどき解説してくれた。


「この法律は新しいものだ。こちらより後に出来たから、前の法律は上書きされる」


「なるほど。新しい法律優先ね」


 その理論で行くと、最新の法律書を読まないと知識が古くて使えないな。唸りながら、古くてボロボロの表紙が崩れそうな書物を避け、新しい革張りの本を手に取った。


「ところで、何を調べている?」


「今さらだけど、孤児院作るにあたって必要な知識を詰め込んでる」


「なぜだ」


 疑問ですらないリアムの声に顔をあげ、小首をかしげる。オレとしては彼女が賛同しない理由がわからない。だって、必要な知識を覚えるんだぞ?


 孤児院を作ってもいいって言ったじゃないか。


 互いに無言で見つめ合い、かしげていた首を元に戻す。たくさんの叙勲やら表彰をして忙しかったから、頼みごとが記憶から抜けてるのかも。きっと悪気はないと思いながら、素直にもう一度願いを口にした。


「だって、孤児院作っていいんだろ?」


「ああ、許可は出すが……それと法律知識の必要性がつながらない」


 どうも根本的な部分がズレてる気がしてきた。異世界だからなのか、引きこもりだったオレが世間知らずだったから?


 目の前に用意された紅茶を一口飲むと、いつもと香りが違った。甘酸っぱい香りがするのに、味は酸っぱさを感じない。でも匂いだけで口の中に唾液が溜まる。梅干を口に入れる前に匂いだけ嗅ぐと唾液が出る、あの感じだ。


 そういや梅干しも食べたいな……日の丸弁当。この世界にはなさそうだけど。

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