114.よく味わい、残さず、お代わり自由(3)

「どちらかと言えば世話を焼かれる方に見える」


 リアムにもそう見えるのか。確かにノアやジャックには面倒かけてる自覚あるけど、オレだってやればできる子だぞ。もぐもぐと口の中のチーズトーストを噛み続ける。


 自分が言い出したルールなので、食べ物が口に入ってる時は話さない。ごくんと飲み込んでからようやく反論を始めた。


「普段はいいんだよ。オレがボスだもん、面倒見るのはあいつらの仕事も兼ねてるから。でもペットの世話は飼い主の責任だろ」


『ペットではありませぬぞ、主殿』


「わかってるって。ペットは火起こし手伝ったり、オレを守って戦ったりしないもんな。ヒジリなんて食事用の狩猟まで担当してくれて、本当に頼りになる」


 偉い偉いと撫でれば、あっさり黒豹が陥落した。おまえ、ちょろいぞ? 再びペット呼ばわりされたことに気づかなかったらしい。ご機嫌で尻尾を振りながら、照れたように顔を洗い始めた。


 いつものやり取りなので、周囲は気にせずお代わり! 一時期、聖獣の存在にびくびくしてたのが嘘のように馴染んでしまった。


「随分と自由で、楽しそうだ」


 羨ましそうなリアムの呟きに、シフェルは無言だった。一人で取る食事が味気ないと悲しそうな顔をする皇帝の姿を知っている。それでも毒殺未遂や身分の差が邪魔をして、彼女と一緒に食事を摂れる人間は限られた。


 家族である皇族同士ならば同じテーブルを囲めたのだが……それすらリアムには望めなかった。彼女の血縁者は途絶えてしまったのだから。


「うん。出来るだけ一緒に食べるようにするけど、たまにはこっちに来て食べたら? シフェルが忙しいならクリスや別の騎士を連れて来ればいいじゃん」


 簡単そうに難しいことを提案する。希望を持たせる発言をした裏には、今のシフェルが断りづらい状況を利用するオレの狡さも滲んでいた。なんだかんだシフェルはリアムに甘い。


「……たまになら、よいか?」


 上目づかいで尋ねるリアムの遠慮がちな声が震える。断られることを怖がってるみたいだけど、言わせてもらおう。その上目遣いと潤んだ青瞳、何より可愛い赤い唇からのお強請ねだりに逆らえる奴は男じゃない!!


「わかりました。護衛は必ず近衛騎士2名以上、キヨがいないときは諦める。料理の毒見と送迎はキヨの責任です。構いませんね」


 なんかオレの負担が大きいけど、ここは彼女の願いを叶えるのが恋人ってもんでしょう。


「「わかった」」


 リアムと声を揃えて頷き、再び食事に手を付けた。

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