114.よく味わい、残さず、お代わり自由(2)
「うん。こいつらは孤児ばっかりだから、躾してくれる親がいなかったじゃん。食べ方を知らなくて頬張るから、きちんと教えようと思って。それより味はどう? 口に合いそう?」
驚いた顔のリアムが場に似合わぬ優雅な所作で薔薇色の薄肉を切り分け、口に運ぶ。驚いたように目を瞠り、向かいのシフェルに勧め始めた。
「この肉はすごい。初めて食べる味だ」
「そうですか? では……確かに、素晴らしい火加減ですね。ソースも馴染んだ味より深い気がします」
シフェル絶賛のローストビーフは、足元で食べるコウコの尽力なしでは完成しない。肉を見守る役も当然大切だが、火加減担当はもっと大切だった。ソースも醤油があまり馴染ないから、シフェルには複雑な味に感じるのだろう。
「うん。コウコが得意だから、全面的に任せてる。信頼できるんだよ」
料理にかけて褒めた言葉に、ミニチュア龍が照れたように『主人ったら』と身をくねらせる。当初は蛇にしか見えなかったが、よく見れば爪やら手があって龍としての形が整っていた。いつか龍玉を持たせてみたい。
嬉しそうな顔をしたリアムが、そっとチーズトーストを千切って赤龍に差しだした。
「聖獣殿、こちらはいかがか?」
『いただくわ』
相手が人間だと遠慮のないコウコがぱくりと食べる。自らの手から聖獣に餌……げふん、表現を間違えた……食事を与えたことで、リアムは感動したらしい。ちなみに黒豹はローストビーフの洋わさびが苦手なようで、皿の端に残してあった。
『主様、薄肉が食べたいです』
「追加やるぞ」
実は多めに焼いた肉を収納して保管しているが、それとは別にオレ達のテーブルだけ中皿に乗せたお代わりが置いてある。あの傭兵が集るカウンターテーブルから、リアムやシフェルに追加を取ってこいというのは気の毒だと考えた苦肉の策だった。
2~3枚を乗せてやると、白いチビドラゴンはもぐもぐと両手で持って食べ始めた。なんだろう、リスやハムスターに似てるな。小動物特有の可愛さがある。
『主ぃ、これ伸びるぅ』
お前の語尾もいつも伸びてるから丁度いいだろ。そんな文句を言いながら、チーズの糸に絡まったブラウの顔をタオルで拭いてやった。毎度のことだが、食事のたびに忙しいのは聖獣のせいだと思う。獣姿だからしょうがないが、マナー云々以前の問題だった。
「キヨが世話を焼いているのは意外ですね」
誰かにやらせると思ってたらしいが、聖獣達が言うことを聞くのは主であるオレだけ。いきなり顔をタオルで拭いたりしたら、絶対マジ噛みされるぞ。光栄とか言う間もなくあの世行きだ。わかってて任せられるわけがなかった。
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