115.法律を守る側ではなく作る側でした(2)
「この世界で新しい施設を作るとき、現行法を調べて適用しないのか?」
前世界で言うなら、建物の耐震基準やら建築基準法、土地の利用制限とか……大量の法律があった。さらに施設の運営に関しても役所の許可がいるんだろう。それらを調べないと困る。
「前例がない施設を望むのだから、施設が出来てから必要な法を作ればよい」
あ、これ世界の違いじゃなくて、育ちの違いだった。ようやくすれ違う会話の根本がわかる。オレは庶民だから『偉い人が作った法律を守る側』だったけど、彼女は『必要な法律を制定する側』なんだ。そこの考え方が違うから、話はどこまでも平行線だった。
「うん、話が噛み合わない理由がわかったぞ。作られた法律に従う立場だったんだよね、オレ。でもリアムは国民や貴族の意見を聞いて法律を作る人だから、必要なら作ったり直せばいいと考えるんだ」
「なるほど……その違いは気づかなかった」
彼女にとっての常識と、オレが知ってる感覚の違いはこれからも出てくるだろう。そのたびに、こうして互いに話を詰めて擦り合わせる作業は、あと何回ある? 面倒だと思うより、楽しみだと考えることにした。
リアムの考え方は大きくて広い視野を持ってる。局地的に目の前のことを片づけることに長けたオレがいる。両方揃ったら、世界はどこまで優しくなるのか。試してみたくなるじゃないか!
「毎回、あれ? と思ったら、こうやって話を合わせてみようぜ。違った視点で物が見れるの、楽しみだね」
気づかなかったことに表情を曇らせたリアムは、心の中で自分を責めてそうだ。そんな必要はないと明るく笑って「楽しみ」と口にする。きょとんとした後、彼女はにっこり笑った。
うん、やっぱり美人さんは笑顔が似合う。
「調べなくていいなら、法関連は後にする。孤児院を作るために必要な物を揃えるから手を貸して」
「もちろんだ。これは英雄殿への褒美だからな」
皇帝らしい物言いに、くすくす笑いながら「光栄です、陛下」と返してみる。指を絡めて手を繋ぎ、空いた左手でメモを取り始めた。
「まず、土地。孤児院の建物、職員もいるか」
「その辺は宰相の担当だな」
「ウルスラさんだっけ? じゃあ、あとで相談するよ。風呂や食堂の打ち合わせもしたいから」
税金で建てる孤児院だから、宰相であるローゼンダール女侯爵が絡んでくるのは納得だ。彼女ならしっかりしてるから、オレが土地探して詐欺られるより安全だろう。いや、土地買うときはレイルに仲介頼むつもりだったぞ。自衛策のひとつだ。多少情報料を払っても、安全優先だから。
メモした内容の隣にカッコを書いて、ウルスラさんの名前を追加する。
「次は孤児用のベッドとかの家具、服、食器、細々した雑貨か」
女の子がいれば櫛だったり、様々な小物がいる。歯磨きの道具や掃除もしなきゃいけないか。いくつか書き出してみたが思い浮かばない。起きてからの行動を思い出しながら、タオルなど追加した。
「セイ、孤児の中には孤児院の物を盗む子供もいるだろう。法律はどうする?」
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