115.法律を守る側ではなく作る側でした(3)
「孤児院の子供が? させないよ」
法律なんていらない。そんなので
でもこの世界で、孤児は泥棒や犯罪者と同じ感覚だろう。ならば税金を投入する以上、貴族を納得させる言い分が必要だった。あれだ、嘘も方便……使い方が違う?
「盗んだら罰する法を作るより、盗まれないように手を打つのさ」
首をかしげるリアムに説明を始める。
「たとえばそう。服やブラシ、靴に名前を刻むんだよ。それで本人達に与える」
「持ち帰ってしまうだろう」
「うーん。これは説明が難しいかな。彼らは自分の持ち物がない状態で、お腹が空いて、寒い場所で寝てたわけ。自分だけの名前が入った服は嬉しいから大切にするだろ? しかもその施設に留まれば、ご飯が食べられて、温かくて柔らかい布団で寝られる――外の冷たい世界に戻りたいか? 盗んで持ち出してもすぐに売ってなくなっちゃうのに?」
リアムは自分が知る事例に置き換えて理解しようとする。何も持たない状況で、物をもらったら持って逃げる。それが当然なのに、違うと言われて混乱している様子だった。
「ここにネックレスがあるとして、オレはリアムのプレゼントだから大切にして身につける。もし失くしたら必死で探す。でも知らない人にもらったら? きっと身につけないし、失くしても気づかないと思うぞ」
別の例えで話をすると、唸っていたリアムがぽんと手を叩いた。基本的に頭の回転はオレより全然上なので、理解する切っ掛けがあれば足りる。
性善説と性悪説、どちらを支持するかって違いなんだ。
「わかった。つまり自分の居場所を守ろうとして、盗みをやめるのだな?」
「うん。盗んで追い出されたら次はない。でも大人しく勉強して施設で生活したら、食事も寝る場所も服も貰えるんだ。どっちを選ぶのが得か、すぐにわかるはずだ」
リアムと意見交換すると、自分が賢い気がする。でもこれは異世界のチート知識で、いわゆるカンニングで、試験に出る内容を前日に知ってたのと同じだった。だから理解の早いリアムを素直に凄いと感じる。
「盗んだら、この施設への出入りは禁止とする――この一言だけでいいんだ」
「法で縛るより、ずっと拘束力が高そうだ」
くすくす笑うリアムの呟きに、腹黒さを見抜かれた気がしてオレは笑って誤魔化した。
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