116.不吉フラグ? 立てねぇよ!(1)

 あっさり土地は決まった。オレも驚いたのだが、英雄様の報酬に土地が含まれていたのだ。街と宮殿の中間ほどの位置に与えられた土地は、オレの屋敷を建てる予定だったと聞いた。


「オレは屋敷とかいらないから」


「……欲がないよな」


「まあ、ボスだから」


 最近よくわからない理由で納得されているが、オレに欲がないという通説に傭兵達が一斉に頷く。納得できない。オレより欲深い奴はいないってくらい、あれこれ強請ってるぞ。


 傭兵を雇ってもらって、孤児院を作ってもらって、その土地や建物もそうだし、実はもうひとつ大きなものを欲しがったのだ。


「オレは欲深いぞ? だってあれこれ欲しがって、与えてもらったもん」


 足元のヒジリを撫でながら、孤児院予定地を確認した。思ったより広いし、立地条件もちょうどいい。護衛につけられたジャックとジークムンド、ライアンが首をかしげた。


「そんなに豪華なもん、強請ったか?」


 不思議そうなジャックに、にっこり笑う。


「うん、北の国の王子様とそのご一行様。オレがもらったんだ」


 まだ誰にも教えてなかった話をもらす。眉をひそめたジャックは「そんなもん、金にならねえだろ」とぼやいた。どうやら命乞いをして彼らを助けたと思ったらしい。


 残念だが、オレはそんなお人好しじゃなかった。ちゃんと思惑はあるし、利用価値もある。


 膝まである草をかき分けて歩くオレの後ろから、背中に乗れとヒジリが鼻を押し付ける。ぽんぽん叩いて、彼の背に乗せてもらった。足元の草の中にいるコウコが、するすると足を伝って登ってくる。


「コウコ、スノーはどうした?」


『主ぃ、僕のことは?』


「お前が無事なのは上から見えてる」


 青い毛皮がもそもそ草をかき分けて歩く姿が見える。しかし白いスノーの姿がなかった。明るい昼間に見落とす可能性は低い。


『スノーなら影で寝てるわ』


「そう? ならいいや」


 ぐるりと見回した土地にある丘に建物を建てて、手前に庭を作る。子供達が「閉じ込められた」と思わないように、壁は作らない。開けた状態を維持することで、孤児以外も安心するだろう。


 孤児にしても、拒まれていないと理解できる。受け入れてくれるのだと……そう思わせないと建てる価値が半減するから。


「ここから育った子供が、次の子供を育てて……そうやって世界が変われば、オレがこの世界に残した功績になるだろ?」


「不吉な言い方するんじゃねえよ」


 いらっとした口調でジークムンドが吐き捨てる。オレが早死にフラグを立てたと思ったのか?


「ここで残念なお知らせだ。憎まれっ子世に憚かる――オレは簡単に死んでやらねえぞ」


 にやっと笑ってからかうと、ぐしゃりとジャックが髪を撫でた。後ろで縛った髪をライアンが引っ張る。


 やめろ、オレが禿げたらどうしてくれる?!

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