215.犯人より腹ごしらえ優先(2)

「襲撃されてオレはそのまま起きてた。連中は少し寝たんじゃね?」


 あれだけの騒ぎで起きないわけない。嫌味な奴……助けに来いっての。どうせ、キヨなら問題ありませんとか言って、二度寝したに違いない。すっきり目覚めた顔しやがって。


 ふわっと思い出したように欠伸が口をつく。手元の肉をざっくざく適当なサイズにカットする。ブラウに目配せすれば、心得たように肉を鍋に放り込んだ。


「ちがっ、そうじゃねえ! この肉は串焼き用だぞ!!」


 叫んだが時遅し。肉がすべて鍋に投入され、笑顔でかき回すマロンによって、乳白色のスープに沈められてしまった。酢で柔らかくしないと、あの肉を噛みちぎれる気がしない。


「肉だけ回収する都合いい魔法知らねぇ?」


「知りません」


 即答するシフェルに「そうだよな」と溜め息をついた。今日のスープは肉の出汁で妥協か。すると全力でかき回すマロンが口を挟んだ。


『ご主人様。バラバラでもいいのでしょうか』


「そうか! ミキサーだ!!」


 マロンの鍋に駆け寄り、中に浮き沈みする肉を砕くイメージで、魔力のスクリューを作る。砕くのって、ブレンダーだっけ? あれは中で刃が回転する感じ……。出来るだけ具体的にイメージするのと同時に、上に風で蓋をした。


 ミキサーと一緒で、絶対に飛び散ると思う。その考えは正解だったようで、風の蓋はあっという間に白く濁った。熱いシチューが飛んでくるとか、罰ゲームだから。


 手応えが滑らかになったところで、ブレンダーもどきと蓋を消す。ぶわっと蒸気が襲ってきた。マロンの首根っこを掴んで引っ張る。大人しく杓文字を離したマロンを抱っこして、後ろに転び掛けてシフェルに受け止められた。


 これ、あれだ。


『孫亀、子亀、親亀みたい』


「そう、それそれ」


 ブラウの突っ込みに頷く。シフェルに礼を言ってから、マロンを見ると目を丸くしていた。何か驚くことあったか?


「どうした?」


『僕、もしかしてご主人様に助けてもらった?』


「……火傷から庇っただけだぞ」


 何やら感動している様子のマロンを引きずったまま、湯気がだいぶ収まった鍋を覗き込む。細い繊維状に砕けた肉が、いい具合にスープに溶けていた。野菜も粉々になったので、南瓜の赤が怖い。外が緑で、剥いたら真っ赤な中身の南瓜を入れたんだが……一緒に粉砕してしまった。


 あれだ、ボルシチだと思えば飲める。


「ボス、焼く肉はどうする?」


 中に入ってしまったので、別の肉を用意しようと収納のリストを眺めた。ちょうどベーコンが余ってる。ブロックベーコンを置いて眺めた。スライスするか?

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