215.犯人より腹ごしらえ優先(3)

 ブラウの風の刃もオレは使えるはず。空中に浮かせてから出来るだけ薄くカットした。最初の7〜8枚は薄すぎて穴が開いたり、やたら厚かったりしたが慣れてきた。しゅっしゅっとリズム良くカットするベーコンを見ていたら、目玉焼きが欲しくなる。今日のパンに挟んだら旨そうだが……卵そんなにあったか?


 在庫を見たら足りないので、仕方なく茹で卵にした。万能調味料マヨネーズはないので、スライス卵にハーブ塩を掛けておく。ドレッシングと同じ作り方だって、漫画に描いてあったけど……料理男子じゃねえから分量の比率がわからん。いつかチャレンジしよう。


 片方のベーコンをスライスする間に、残りをレイルがサイコロにカットしていた。それをジャックが串に刺し、ジークムンドが焼いていく。すごい流れ作業だ。オレが薄く切ったベーコンは、ノアとサシャが鉄板で焼き始めた。


「あ、オレのはカリカリにして!」


「このくらいか?」


 違う、端がほんのり持ち上がるくらいじゃなくて。もっと煎餅みたく硬くしてくれ。


「焼き菓子みたいに水分とんだ感じ」


「「「キヨって、変なの好きだな」」」


「焦げじゃねえか」


 ハモった傭兵の語尾に、呆れたレイルの言葉が重なった。この世界で食べたベーコンは日本のより厚みがあって、しっとり系だったな。


「いや、人の好みは貶しちゃいかん」


「確かにな。貧乳好きに、爆乳好きの気持ちはわからんだろ。あれと一緒だ」


「うーん。ちょっと違うかな」


 擁護してくれる髭の傭兵に、微妙〜と首をかしげる。ニュアンスは近いんだが、例えがセクハラだぞ? それを女性に聞かれたら、絶対にグーで殴られるやつだから。


「ああ、悪い。マロンもういいぞ」


 ずっと火のそばで杓文字で混ぜていたマロンを、台の上から下ろした。踏み台から降りたオレの小型版と手を繋ぎ、椅子に座らせる。収納から取り出したスポドリの水筒を渡すと、困惑した顔でオレの顔と水筒を眺めた。


「聖獣だから平気だろうけど、暑い場所にいたんだから水分補給しろ。人なら倒れちゃうぞ。ほら」


 頷いて水筒に口をつけ、一口飲むとそのまま一気に飲み干した。自覚がないだけで喉が渇いていたんだろう。それとも味が気に入ったかな? 微笑ましく見守る。両手でしっかり水筒を抱いた子供は、可愛かった。


 そこっ! 自画自賛とかナルシストとか言うなよ!? カミサマが作った美形チートのオレそっくりなら、可愛くて綺麗は確定事項だ!

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