216.甘やかすのは主人の役目(1)
「マロンは少し休憩」
『まだ出来ます!』
「だめだ。休憩は義務だぞ」
またもや驚いた顔をする。今までの主人にどんな扱いをされてきたのかと眉をひそめた。他の聖獣は主人の数が少ないみたいだから、馬だけに酷使されたのか? まあ、乗り物としては黒豹より乗り心地はいい。背が高いのは怖いけど。
次に乗せてもらうときは、ポニーサイズでお願いしよう。森の中だと木々がぶつかりそうで危ないんだよな。
考え事をしながら、スライスした茹で卵を並べる。起きたコウコにスープの火の番を頼むと嬉しそうだった。基本的に聖獣は主人に何か頼まれたり、命令されると嬉しいようだ。必要とされてる感じが伝わるんだろう。
引きこもりが親に声かけてもらえなくなって、見捨てられたと焦る気持ちが近いのか。いや、全然違うな……たぶん。
「出来たぞ!」
パンを炙りながら声をかける。白パンではなく黒パンを選んだが、これはカチカチの硬いやつじゃない。城の料理人に頼んで黒糖で作ってもらったパンなのだ。少し炙ると美味い。
「黒パンか」
「硬いのか?」
集まった連中の残念そうな声に、ふふっと笑いが漏れた。
「これはほんのり甘くて柔らかいぞ! 特注だ!!」
初お披露目の黒糖パンを手にとり、柔らかいことに驚く傭兵達。いたずら成功の気分だ。炙ったパンの中央を切って、真ん中にカリカリベーコンと卵を挟む。葉野菜も一緒に挟んだ姿を見て、みんなが真似し始めた。
オレの食べ方が少し変わってても、傭兵にとって未知の料理を提供してきた実績から、彼らは真似しようとする。それを5つ作って、聖獣の前に並べた。それからスープを聖獣の器によそう。ヒジリ、ブラウ、コウコ、スノー、マロンの順番だ。これはケンカしないよう、オレの聖獣になった順番を基準にしていた。なぜか納得してくれたんだよな。
赤いスープの入った器と、パンが乗った皿を交互に見て、聖獣達は並んだ。地位は偉いんだろうが、黒豹や青猫が人間と同じように椅子に座るのは無理だ。そのため彼らは分厚い絨毯の上に鎮座していた。
聖獣用絨毯は、最近になって出来上がったとシフェルが届けてくれた物資の中にあった。一応、皇帝陛下より上の地位だからね。地面で食べさせてたオレを見て、悲鳴を上げた連中からの進言があったとかなかったとか。
食事の挨拶があるまで、大人しくお座りしたりトグロを巻いて待っている。今回のマロンは特別扱いで、オレのベンチの隣に座らせた。人間の姿してるから、椅子に座れるし。あまりに今までの扱いが酷かったようなので、甘やかしてやりたい気持ちもある。
オレの前に、聖獣用のお代わりと一緒に器が置かれた。今日の同席はレイル、シフェル、マロン、ノアだ。……ん? シフェル、お前は正規兵のテントに帰れ。
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