270.裁判開始、ざまぁしてやんぜ(6)

「貴様のようなガキに言われたくない!」


「そうだ、聖獣様に選ばれただけのくせに」


「お前のせいで散々な目に」


 云々。まさかの子どものケンカレベルの罵詈雑言が返ってきた。あまりのレベルの低さに、きょとんとしてしまう。言葉が出てこないって、こういう時に使うのかな。


「あのさ、オレの地位を承知の上で口をきいてる?」


 怒鳴る気になれず、溜め息混じりに尋ねた。本当にこの低レベルだとしたら、何も考えずに動いた結果がたまたまあの形だったってことか?


 後ろに誰もいなくて? いや、絶対にいる。馬鹿だから乗せられたのは間違いないけど、乗せた奴の頭はいいと思う。この連中の頭の悪さを知っていて、使いこなせる奴……それも皇帝陛下の近くで秘密を知って……ん?!


 ばっと振り返ったオレの動きに釣られて、公爵達も上を見上げる。リアムはカーテンの影になったが、後ろの護衛隊長シフェルの顔が見えていた。ついでに隣の宰相ウルスラと、その斜め下で寛ぐ兄シン。レイルは上手に隠れている。シンの膝でにたりと笑う青猫ブラウ。


 くそっ、あとできっちり問い詰めてやる。


 ここで真実を叫ぶわけにいかず、断罪劇の途中ということもあり、歯を食い縛って正面に向き直った。


「知恵を授けられたなんて話されても、馬鹿だから通じないの忘れてたよ」


 こうなったらこの場は煽って、真犯人とは後で対決だ。ここで下手に真犯人の名前が出る方がまずい状況になった。だがこういう場面で、オレの嫌味は冴えるんだぞ。嫌な特技だけど。


「なんだと!?」


 前の話を忘れたみたいに元気よく噛みついたのは、おなら公爵だった。でっぷりした腹を突き出し、偉そうにオレを見下そうとする。物理的に身長の問題で見下ろされちゃうけど、ヒジリに乗ったらどうなるか。当然聖獣様は空を歩けてしまうわけで。


 合図すらなくても、ヒジリは事情を察して空中でのたっと伸びた。いわゆるライオン座りという姿だ。オレは透明の板を空中に作ると、その上に座ってヒジリに寄りかかった。足の部分はカットして、ちゃんと揺れるようにしておく。


「オレは皇族分家で、北の王家の第二王子だ。どちらか片方でも、公爵より地位が上だよね。しかも両方あれば、3人合わせてもオレに勝てる要素がないじゃん。それで誰に操られたの?」


「操られるものか!」


「そうだ、これは我らの意思だ」


 認めちゃった。それは罪が重くなるんだぞ。真犯人を特定した今となっては、まあ……逆に好都合だけどね。にっこり笑ったオレは、身の程を知らない彼らに丁寧に説明してやることにした。ついでに……この場に集まった貴族連中にも、格の違いを刻みつけてやろう。オレに逆らう気がなくなれば、お嫁さんのリアムに手出しするバカも減らせるよな?

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