270.裁判開始、ざまぁしてやんぜ(5)
「我が弟が負けるはずがない」
シンは根回しの一部を知るから、余裕で頷く。北の王家として承認したという意味だろう。オレの独断だけじゃないぞ。そう匂わせて、リアムにお強請りしてみる。
「ねえ、お願い。リアムのために勝ちたいんだ」
「「え?」」
俺のためじゃないのか!? シンの勘違いは首を横に振って一刀両断だ。ウルスラがくすくす笑いながら、階下を指さした。
「早くしないと終わりますよ」
慌てたオレはリアムの手の甲を額に押し当てた。口付けしたいけど、やっぱ日本人には恥ずかしい、無理。カーテンがある際まで近づき、見える範囲で転移先を固定する。カッコつけてパチンと指を鳴らし、オレはステージ上に立った。
始めようか。
「エ、エミリアス侯爵閣下!」
「罰を言い渡す前に、彼らに聞きたいことがあってね。皇帝陛下の許可は得た」
裁判長が慌てるのを右手を上げて抑え、オレはにっこりと笑う。その黒い微笑の意味を理解できる者はいないだろう。これから派手に断罪劇を始めるからね。
「トゥーリ前公爵、オタラ前公爵、ペッコラ前侯爵だったかな? 途中で名前や肩書きが変わったから、間違ってたら言って欲しい」
嫌味を混ぜたオレの言葉に、彼らの表情が強張る。緊張というより、攻撃の意思みたいだ。もう守るべき家から捨てられた立場だし、オレを巻き込んで恥かかしてやろう! ぐらいの気合いは欲しいよな。
足元の影から現れたヒジリが、ゆったりとオレの腰に擦り寄った。黒豹という巨大な肉食獣の出現に、彼らの腰が引ける。
「君達を後ろで操ってるの、誰?」
まずは煽りから入ろうか。きょとんとした彼らに分かるよう、噛み砕いてもう一度繰り返した。ここで溜め息をつけて、いかにも馬鹿に親切丁寧に説明してやる上位者目線と態度は重要だ。
「オレの言ってる意味が分からない? 君達程度の浅はかさと能力で、皇帝陛下に楯突く度胸なんてないでしょ。だから誰が黒幕か話してくれないか? 絶対に誰か知恵を授けた者がいるんだから」
お前らじゃ絶対に無理。そう言い切る。ここで重要になってくるのが、オレの中途半端な地位だ。元公爵家当主としては、ぽっと出の侯爵にいろいろ言われたくない。だが、エミリアスの家名は皇族分家……明らかに目上だった。
どう出るか。髪が少なくなってきた頭で必死に対策を練ってくるはず。何も考えずに反射的に口で戦うほど、公爵家は甘くないだろう。そんなオレの予想は完全に裏切られた。
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