73.獲物の処理は任せるわ(3)

「おう、悪い」


 急いで収納口を地面すれすれに設定し、テントの骨組みを取り出す。半分ほど出すと、後は手馴れたジャックとライアンが引っ張ってくれた。次に天幕を出せば、待っていたサシャが引き受ける。


 収納口からもう1張分テントを出すと、組み立てを任せて大量の食器と大きな鍋を並べた。机はすでにノアが用意してくれている。ノアは猫属性で左から2番目だから、そんなに魔力量が多くないはずだが……彼の収納もかなり大きかった。


「キヨ、さっきはありがとう」


 近づいたユハに頭を下げられ、擽ったい気持ちで頷く。オレが助けたというより、割って入っただけ。本当はもっと格好良く行きたかったが、ヒジリやレイルの言動で霞んでしまった。


「気にするなって」


 以前ジャック達がしてくれたみたいに、ぽんと背を叩いて通り過ぎた。ユハの腕に残った縄の跡が痛そうだ。そういやオレの傷はヒジリが治した――拷問でという注釈つきだが――ため、軽い貧血くらいで済んでいる。礼を言おうと見回すが、ヒジリの姿がなかった。


「ヒジリ、どこ? 影の中?」


 足元を覗き込むと、いきなり黒豹が湧いて出る。


『主殿、材料の肉だ』


 まだ復活しないブラウをよそに、ヒジリは髪の毛収納後に影にもぐっていた。どうやら別の場所で狩りをしてきたらしい。兎らしき獣を5匹……いや、6匹持ち込んだ。


 白に茶色のブチがある毛皮の兎? は耳がやや小さい。オレが知る兎の半分ほどしか耳がなく、だが猫や犬より明らかに長かった。耳を持って持ち上げると、やはり後ろ足が兎系だ。バネが強そうなモモ肉はおいしそうだが……。


「ヒジリ、オレ……肉を捌いたことないけど」


 死体をどうしたら食肉にチェンジ出来るのか。収納して「肉」って認識したら皮を置いてきてくれないかな? 前に読んだラノベはそんな設定があったけど、試してみようと兎を収納する。肉だけを思い浮かべながら引き出したら、本当に肉が出た。


「わぉ!」


 喜びかけてよく見たら、先日リアムから分けてもらった食料の方の肉だった。そうか……確かに肉だわな。肉を出せと命じたから、最初に加工済みの肉が出た。収納魔法は何も間違ってない。間違ってたのは、オレの頭のほうだ。


 苦笑いして「兎の肉だけ」を念じて引っ張ると、今度は兎が毛皮ごと出た。うん、やっぱりラノベはラノベ。ここは異世界だけど、あのラノベと別世界だったわけで。そんな都合のいいスキルじゃなかった。


「ノア、これお願い」


 困った時のオカン! ノアに兎の耳を掴んで見せると、すぐに近づいてきて頷いた。


「ああ、キヨは捌けないのか? 教えるから一緒に……」


「ゴメン、やだ。なんか怖い」


 即答で首を横に振った。肉は食べるが、獲物の処理は得意な奴に丸投げしよう――指揮官特権で!

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