73.獲物の処理は任せるわ(2)

 お昼を過ぎたばかりの太陽がじりじり暑い。ばっさり切ったおかげで、温い風が首丈の髪を揺らした。結んでたときより、少し涼しい気がする。やっぱり短いほうが圧倒的に楽だ。


「魔力がこもった髪は、切った後の処理が重要なんだぞ」


「そうだ。魔力を解析して利用されたらどうする!」


 うん? 魔力って解析できるの? 解析したらどうなるんだろう。パターンを解析して赤くなるあれか。いや、使徒とかじゃないんで……。うーん、この話題はブラウと分かち合いたかった。元世界のアニメネタはブラウしか共有できないのが悩ましい。


 まあ、奴は今オレに絞め落とされて転がってるんだが。


「解析してどうするの」


 首をかしげるオレに、レイルが腹を抱えて笑い出した。こいつの笑いのツボは本当にわからない。変な場面で笑い出すが、なぜか大半がオレ絡みなんだよな。本当に失礼な奴なんだが、役に立つし意外と親切なんで個人的に嫌いじゃない。


 シフェルが溜め息をついて、ひらりと手を振った。


「あとで説明しますから、とりあえず食事にしましょうか。捕虜はそちらで管理してくださいね。食後に回収部隊を回しますから」


 北の王太子とやらも、その他の捕虜も、ほとんどが傭兵部隊による捕獲らしい。確かに上空から見た戦況も、傭兵が戦力の中心だった。


 一番危険な場所を担当した彼らは、オレの昨日の「ケガ人量産作戦」を忠実に実行したのだ。そのためケガ人とその介助人を大量捕獲し縛り上げていた。回収部隊が来るまで、捕らえた部隊が管理するのが通例だという。


 抗議してシフェル達騎士に引き取ってもらいたいが、ジャック達が納得したんじゃ仕方ない。


「……確かに、捕虜がいる場所でする話じゃないか。よし、休憩用の天幕を張れ」


 ジャックも同意したことで、傭兵達が一斉に動き出した。中央の国の騎士や兵は少し離れた場所で、すでに調理を始めている。漂ってきた匂いをくんくん嗅いで、戻ろうとするシフェルの腕を掴んだ。びっくりした顔の美形に、勢いよく頼む。


「醤油貸して!!」


「は……?」


「シフェルのとこの部隊から醤油の匂いがする! 後で返すから!」


 お願いと両手を重ねて頼むと、苦笑いしたシフェルが「持ってこさせます」と約束を残して戻っていく。醤油という調味料をGETしたオレの機嫌は上昇した。


「やった! 今日のお昼は醤油味だ!!」


 昨夜から塩味オンリーだった。悪くはないが、やはり味噌や醤油が欲しい。それに醤油があれば、ジークムンドの故郷の味『黒酢』だって活きるじゃないか! 黒酢炒めもどきを作ったが、あれはやはり醤油が足りなかったと思う。


 かつてのオレは別にグルメじゃなかった。しかしこの世界の奴らより多少は味にうるさい方だ。たぶん……日本人だったからだろう。他民族だったら、塩だけで満足した可能性もあるけど。周囲に美味しいご飯が溢れていた日本人の繊細な舌を舐めるなよ! 味には煩いのだ。


「キヨ、踊ってないでテント!」


 浮かれているオレの頭をぐしゃっと乱して、テントを出せとジャックが地面を指差した。宿泊時に使うテントの横幕をかけずに使うと、学校のイベント用テントみたいに使える。四方が開けた状態なので、戦場で警戒しながら使えるし、収納も簡単だった。

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