第15章 意外と近くに和食調味料あった

73.獲物の処理は任せるわ(1)

 肩をすくめて賛否をかわしたレイルが、腰のベルトに差していたナイフを引き抜いた。鞘から抜いた途端、ノアとジャックが前に立つ。オレとレイルの間を遮るつもりらしい。少し離れた場所に立つシフェルも剣に手をかけていた。


 ……ホント信用されてないな、レイル。


「結界あるからいいよ」


 2人に下がるように伝えると、彼らはそれでも渋い顔をしていた。オレが自分を大事にしないと思ってるんだろう。背をぽんと叩いてどくように伝えると、呆れ顔で左右にずれた。


「賭けの分け前だ」


 刃の状態を確かめたナイフを鞘に戻し、レイルが差し出した。武器を預ける傭兵の習慣とは違うが、彼が愛用の武器を手放すことは珍しい。驚きにざわめく傭兵達と目を見開いたシフェルの前で、オレは歩み寄って受けた。


「サンキュ」


 飾りのない黒い柄が地味だが、握るとしっくりくる。かなり計算して作られたナイフなのだろう。抜いた刃の金属が銀ではなく、少し金色がかっていた。オレの髪色に似てる。


 汗で湿った髪を掻き上げ、ふと気付く。結んでいた紐を解いて確認すると、髪の一部が切れていた。戦闘中だろうが、いつ切れたのか覚えがない。それより魔力を大量に使った記憶がないのに、肩甲骨の下を覆う位置まで伸びた髪が邪魔だった。


 2本のナイフを敵に刺したままだが、手元のナイフは錯覚機能つきで使いづらい。収納口を開いて戦利品の錯覚機能つき歪んだナイフを放り込み、もらったばかりのレイルのナイフを抜いた。無造作に白金の髪を掴んで、白金の刃を当てる。


「あっ!」


「キヨ!」


 注意する声と同時に、さくっと髪を切り落としていた。よく研がれた刃は当てるだけで髪を切っていく。彼らの声に振り返る動きで、首筋で切れた髪が地面に落ちた。


 光を弾いて銀色に見える髪が風で散らばる前に、ヒジリが髪の毛を回収する。影を作った黒豹が地面に落ちた髪をすべて影の中に取り込んで、誇らしげに尻尾を揺らした。


「ヒジリ、何してるの?」


「いや、キヨがおかしい」


「そうだ、髪を切るなら手順を踏まないと」


「何かあったらどうするんだ」


「本当に非常識な人ですね」


 畳み込むように叱られたオレの眉がひそめられる。シフェルまで一緒になってバカ呼ばわりされる非常識な行動が、どこにあった? やたら伸びるのに『髪切るな』はない。


「何がおかしいんだよ」


 頬を膨らませて子供っぽいが抗議を態度と表情で示す。腰に当てた手はナイフを握ったままで、さすがに身内相手に刃を向ける気はないため、鞘に戻した。

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