91.広がる誤解と疑惑のデパート(2)
「今夜は引くが、帰ったら余との時間を作れ」
「もちろん、我が皇帝陛下の仰せならばいくらでも」
真っ赤な顔でぎこちなく立ち上がるリアムをドアまでエスコートして、繋いでいた手をクリスに引き継ぐ。離れる体温が惜しくて、ぎゅっと同時に握り直してしまい笑った。指が離れる直前に互いに指を絡め合うタイミングが、見事に一致したのだ。
「おやすみ、リアム」
「セイもゆっくり休め」
「ありがとう」
お礼を言ってリアムの後ろ姿を見送る。クリスに導かれて歩くリアムは、何回か足を止めたが振り向かなかった。ずっと見送って、ほっと息をつく。
「さて、誤解を解かないと」
「誤解……疑惑なら、さらに膨らんでいますよ」
シフェルの言う通り、振り返った廊下には鈴なりの傭兵達がひそひそ噂をしていた。どう見ても、男の子同士のカップルが別れを惜しんだようにしか見えない。だがリアムが女性だという話は禁句で、説明のしようがなかった。
しかも女性に抱き着かれたオレを「浮気者」となじりながら、最高権力者の皇帝陛下が手錠で拘束する驚きの展開を経て、彼らの頭の中には『ドラゴン殺しの英雄はドMの拘束プレイ好きな同性愛者』という、ありえない人物像が出来上がった頃だろう。
男色家の噂を甘んじて受けるべきか。無駄かもしれないが徹底的に否定するか。
「言っとくが……オレは男好きじゃないぞ」
「わかってる。
男全般が好きなんじゃなく、好きになった奴が男だった――最高に好意的に判断してもこうなるらしい。理解したつもりのジャックが慰めるように肩を叩いた。
「いや、だから……男は好みじゃなくて!」
「大丈夫だ。偏見はない」
「そうだ。たまたま惚れた相手が皇帝陛下だったんだろ?」
サシャとライアンも肩を組んでオレの頭を撫でる。誤解なんだが、誤解を解く方法がわからない。リアムが女性だと説明せずに、彼らの疑惑をかわす方法が思いつかなかった。
唸りながら、否定できずに呟く。
「そう(
ううっ……伝わらない。がくりと座り込んだオレを、皆が気の毒そうに眺めた。すごい嫌な感じだ。違うのに、違うと伝えちゃいけないなんて罰ゲーム過ぎる。
廊下の板が冷たい……あれ? 今更だけど、ここって街の中の宿っぽくないか??
「今夜、オレらは外で野宿じゃなかった?」
「ドラゴン退治したおかげで、宿じゃないが街の中に入れてもらったぞ」
ジークムンドがけろりと告げる。オレが気を失うと場面展開が激しくて、毎回大変なんだが……。今回はドラゴン退治で倒れたら、レイルが帰ってきた。さらに巨乳様の洗礼を経てリアムに拘束された挙句、誤解による疑惑がべったり、と。
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