91.広がる誤解と疑惑のデパート(1)
ここで一泊予定なのだが、リアムが「余の命令だぞ」と連れ帰ろうとする。だが今のオレには部下がいた。重要な問題がひとつ残されているのだ。
「あのね、リアム。オレは指揮官だから部下を置いて帰るわけに行かないんだよ」
一応まっとうな理由で説得を試みる。廊下で聞き耳を立ててる数人を含め、彼らに大事なことを告げなければならない。連れ帰られるわけにいかなかった。
仲良く硬いベッドに座って、手を繋いで話をする。オレは左手、リアムは右手を絡めているのだが……クリスに「微笑ましい」と言われ、シフェルに「陛下を猛獣と一緒に置いていくのは」と渋られた。しかし最終的に2人は護衛の騎士と一緒に少し離れた場所に立っている。
「ならば傭兵も連れ帰ればよい」
「なりません」
兵や騎士はもちろん、傭兵にも適用される軍規があるのだとシフェルが口をはさむ。戦場に行くことがないリアムは「厳しすぎる」と唇を尖らせて抗議した。とっても可愛いが、もちろんシフェルが絆されるはずはない。正論で却下された。
つまり騎士、兵士、傭兵の順で帰還すべきだ。傭兵を先に転移させるのは問題があるし、かといって準備が出来ていない騎士や兵士を無理やり転移するわけにもいかない。むすっと唇を尖らせたリアムだが、基本的には聞き分けのいいお嬢様だ。それ以上無理を通そうとしなかった。
「リアムは先に帰って、オレ達を迎えて欲しい」
「だが……」
「お願いっ! 帰る場所はリアムのところなんだよ。だから待ってて欲しいな」
にっこり笑って拝むようにすると、頬を赤く染めたリアムがこくんと頷く。なに、この可愛い生き物。このまま閉じ込めておきたい。絶対に外に出したらヤバイぞ……感情のままに動こうとしたオレの手が、殺気でぴりりと痛みを感じた。
突き刺さる視線はシフェルだ。近衛騎士団長として、皇帝陛下に不埒な手を伸ばす害獣を駆除する気満々だった。これは次の一手で確実に仕留められるパターンだろう。ごくりと喉を鳴らして、伸ばしかけた右手をそっと膝の上に戻した。
頷くシフェルの「よくできました」的な表情が気に食わないが、ここは我慢だ。
「麗しい皇帝陛下のもとへ、竜殺しの英雄として帰還するからさ。前みたいに労って、それからお茶会同席の栄誉を賜りたいんだけど?」
覚えさせられた宮廷用の語彙を駆使してお願いすると、「……セイが真面なこと言ってる」と可愛くない言葉を吐いた。そのくせ頬は赤いし、蒼い瞳はオレを映してくれてる。もう少し意地悪さが出ると、ツンデレ乙なのに惜しい。
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