91.広がる誤解と疑惑のデパート(3)
「良かったなぁ……天井がある場所だ」
「おれらはテントだぞ」
「はい?」
ジークムンドの聞き捨てならない言葉に、食い気味で聞き返した。そこからノアが淡々と説明してくれた内容によると、やはり宿は足りないらしい。
ただ住民達から「街を襲うドラゴンを退治してくれた英雄を外で寝かせるのか」と抗議があり、オレを回収しようとした。傭兵達は構わなかったようだが、レイルがシフェルと交渉してくれたらしい。最終的に街の広場に傭兵と捕虜を押し込み、勝手にテントを張って寝てくれと話が決まった。
「うん、わかった。じゃあオレもテントで寝る」
冷たい床から立ち上がろうとするオレを、ひょいっと後ろから抱える腕がある。斜め後ろを見上げると、赤毛の情報屋さんだった。
「お前は体調崩してんだから、屋根の下で寝ろ」
「だから、テントの屋根の下で寝るよ」
「……人の話を聞け。具合が悪いんだろうが!!」
「全員条件は一緒だろ! 屋根はあるんだ、何が不満だ」
痛めた足は痛いし、少し頭がぼんやりするのは誤差だ。もう手足の痺れも取れた。そう説明すると、レイルは大きな溜め息を吐いた。そのまま外へ連れ出される。
宿らしき建物の外は、すでに夜の星がきらめいていた。気温が低い外だと、息がわずかに白く凍る。晩秋って感じか。森を抜けるとこんなに季節が違うんだな。
どさっと乱暴に落とされて、むっとした。唇を尖らせて石畳の道に座り込む。目の前に座ったレイルがぐしゃぐしゃと赤い短髪をかき乱しながら、白い溜息を吐いた。
「この寒さだぞ。頼むから中で寝ろ」
レイルに頼まれてしまった。続いてジークとノアも言葉で畳みかける。
「そうだぞ、ボス」
「キヨは中で休め」
「絶対にやだ!! みんなと一緒がいい」
子供の我が侭を振りかざして叫ぶと、顔を見合わせた傭兵達が複雑そうな顔をした。なんだよ、言いたいことがあれば言えよ。24歳のくせに……とか、今頃言うんだろ。そんなオレの予想は逆方向に裏切られた。
「やっぱり、男が好きなんだよ。可哀想だから一緒に寝てやろう」
「だが熱があるんだぞ」
「熱があるときは添い寝がいいと聞くぞ」
「じゃあ、誰か添い寝してやればいい」
「ボスの好みの奴っているか?」
ぼそぼそ聞こえてきた、聞こえちゃいけない類の相談に場所を弁えずに大声で叫んだ。
「だから! 同性愛じゃないっての!!」
叫んだ勢いで歩き出すが、すぐに痛みで座り込んだ。影から顔を出したヒジリが乗せてくれるので、広場に向かうよう頼む。
『主殿……人の好みはよくわからぬが、我でよければ添い寝とやらをするぞ』
「……うん、お前でいいよ」
ジークやジャック、ノアあたりと添い寝するより健全だろう。リアムに今度は同性愛者疑惑で責められるのも嫌だ。背中にぎゅっと抱き着けば、心なし嬉しそうにヒジリの黒い尻尾が振られていた。
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