92.空腹は最高の調味料(1)

「腹減った」


 星空を見ながらテントを引っ張り出す。そこで気づいたが、ドラゴン退治の後でみんなは食事したのか。オレは気絶してたから飯食ってないんだけど。そんな呟きに反応したのは、周囲の傭兵達だった。


「そういや、食事の支度してないぞ」


「誰か準備しろよ」


 言い争いが始まる。確かに、全員がオレの容態を見に来る必要はないわけで、実際半分ほどは手持ちのテントを張ったりして野宿の準備をしていた。そのついでにご飯を用意してくれたら、すぐに食べられたと思う。


 組み立てられるテントを見ながら、もう一度「腹減った」とぼやいた。テント張りを手伝おうと申し出たら、「病人をこき使うほど困ってねえよ」と笑われる。大人しくヒジリに抱き着いて温もりながら、今度はベッドを取りに来た連中に折り畳みベッドを渡した。


 収納で持ち歩いてるのがオレだから仕方ないけど、結局働いてるんじゃね? と首をかしげる。手際よく組み立てられたベッドに薄いながらも布団が敷かれた。寝る場所は確保したし、捕虜の皆さんも兵士から毛布やらを借りられたらしい。


 そして問題は、ふりだしの食事問題に戻る。


「どうして誰も料理を作らなかった!」


 止めとなるジャックの指摘に、テント組み立てに残った連中が声を揃えて反論した。


「だって………」


「「「食材がない」」」


 ……あ、食料はオレが全部持ってたかも。


 各人が持たされる携帯食は別だけど、肉もパンもオレが収納してたよね。食材がなければ料理は無理だ。しかも調味料や鍋もオレが持ってるじゃん。


 ぽりぽりと頭をかいて、そっとテーブルを引っ張り出した。その上に残った食料をすべて並べてみる。


「悪い、足りない」


 昼に料理したときも思ったんだけど、全然足りない。パンはかろうじて何とかなるが、肉も野菜もほぼなしの薄い塩味スープでお腹を満たしてもらうしかなかった。


 捕虜の皆さんはスープのみになりそう。まあ最悪、あの歯が欠けそうに硬い乾パンを支給する手もあるか。明日には帰るから予備の食料は食べても構わないだろう。


「お腹すき過ぎて寝られない、たぶん」


 ぺたんとヒジリの毛皮に懐きながらぼやくと、黒豹は少し考え込んだ。足元の影を見つめ、ヒジリが提案する。


『主殿……我が何か捕まえてくるぞ?』


 イケメン過ぎる黒豹の申し出に、周囲の傭兵が拝むように手を合わせた。


「うん、助かる」


 抱き着いていた湯たんぽ代わりのヒジリが影に潜ったため、今度はコウコが首に巻き付いた。爬虫類の冷たい肌に、ぞくっと背筋が震える。


「ブラウ、ちょっときて」


『主、僕に用?』

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