92.空腹は最高の調味料(2)

 首だけ出した青猫に、にこにこと愛想よく手を振る。おいでおいでと手招きされ、用心しながら上半身を出した猫の首を掴んで引っ張り出した。小さいサイズで出てくれて助かった。ほっとしながら「大きくなれ」と命令してみる。


『え、やだ』


「……解約すっぞ」


 脅されて従う青猫もどうかと思う。もそもそと動いて巨大化したところに、ぼふんと飛び込んだ。やっぱり猫の毛皮は柔らかい。幸せな気分で揉んでいると、『あ、そこは……だめぇ』とやらしい声が毛皮から漏れた。


「ちょ、ブラウ。変な誤解されるだろ」


『だってぇ……主が、無理やりぃ』


 こいつ、分かっててやってる。確信をもって、抱き枕サイズの尻尾をぎゅっと握った。両手で握りつぶすと『ぎにゃああああ!』と変な声が漏れる。くすくす笑いながら毛皮から顔を上げると、仕返しとばかり顔を舐めまわされた。


「ちょ、口は。こらっ……やめぇ……あ、はな、せ」


 擽ったさに我慢できずにのたうち回る。猫の舌はざらざらだし、顔くらいならともかく首筋は笑ってしまう。顔から首筋、脇にいたるまでべろべろに舐められたあげく、息も絶え絶えに身を起こせば、ジャックが困ったような顔で立っていた。


 そうだよな、料理作る前に何してるんだ、って話ですよ。遊んでる場合じゃなかった。


「ごめん」


 詫びると、ノアが横からぼそっと呟いた。


「おかずにされっから、大人しくしてろ」


 食事はまだ作ってないぞと首をかしげるが、残念なことに前かがみの一部の傭兵さんの姿に状況を把握した。子供の声って甲高くて確かに女っぽいよな。こんな戦場明けの場所で上げていい声じゃなかった。これはもう、いろいろ仕方ない。


「本当にごめん」


 重ねて謝ると、複雑そうな顔をした連中に目を逸らされた。大人の事情は理解したので、大人しくパンを焼くためのかまどを……あれ? レンガ畳の広場に作ったら怒られるかも。


「なあ、火を焚いていいの?」


「普通にダメだろ」


 あ、やっぱり普通にダメなんだ。街が火事になると困るし、確かにダメだろう。でも料理はどうすればいいんだ? うーん、この冷えた夜に冷たい飯は可哀そうだぞ。これなら野宿の方が火を焚けるだけマシだったかも知れない。


「電子レンジがあればいいのに」


 あれなら電気でチン! 火も出ないし便利だ。そんなことを呟いたオレの足元で、毛繕いを終えたブラウが「あのスイッチ押すやつか」と理解を示した。原理はわかってないだろうが、アニメを観た時に覚えたらしい。


「そうそう、あれなら火を付けずに温かいご飯食べられる……んー、原理ってどうだっけ」

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