227.東の国を駆け抜けろ(2)

「マロン! お願い」

 

 両手を合わせて拝むみたいにすると、大喜びで飛び出してきた。ぬいぐるみサイズから、あっという間に元の立派な馬に戻る。金の角が高級感を漂わせてる。うちの子、よその子と違いますのよ……みたいな。


 さっと背に飛び乗ろうとしたら、ベルナルドが支えてくれた。余計なお世話に見えるが、非常に助かります。現代日本人は馬に乗らないからね、この高さは怖い。


 いつの間にやら数人の騎士も抜けてきていた。彼らは護衛だろう。目配せだけで動くのは訓練された軍人なんだなと思う。さっき名前を明かしたから、護衛の騎士なしで出かけさせるのは、シフェルの立場を考えてもない。


「一気に駆け抜けるぞ」


 ジャックが気合を入れて馬を走らせ、マロンが後を追う。上下に揺れるが、今度は酔わないようにしないと……情けない決意で手綱を握る。


「あ、そこの店で止まって」


 結論として、何回も寄り道したので酔いませんでした。ついでに体調が良ければ、馬もなんとかなるんだな。尻は痛くて割れるけど。


 見つけた店で調味料を大量にゲットして、レイルが店の場所と名前を記録していく。これが重要だ。レイルの探し人は貴族なので、そこらに転がってないこともわかった。


 調味料を買うとまた馬を走らせ、見たことのない野菜を買うために降りる。次は化粧品店でおすすめを纏め買いし、スノーが見つけた野生の果物を収穫した。


 オレの収納はお土産候補や食料が詰め込まれ、見た目手ぶらで集落をいくつか走り抜ける。止まるたびに、ジャックが呆れ顔だが仕方ないよ。こっちが主目的だもん。


「この先の街を抜けると、屋敷がある」


 ようやくジャックの実家がある街に到着した頃には、すっかり日が暮れていた。思ったより肌寒く、上着を引っ張り出す。馬酔いはないものの、尻は完全に真っ二つの痛さだった。


「街中は危険ですな」


 飛び出し一発、事故の元って標語が頭をよぎった。お約束だと子供が飛び出して避ける、でオレが頭を打ったりして記憶が……なんて。ラノベテンプレでよくある展開だ。


「降りていくか」


 馬を引いて歩き出す。金の角を持つ馬がいるせいか、あちこちで「聖獣様だ」と声が上がった。中には膝をついて拝む人まで現れる。


「マロン、人の姿になれる? 目立ってるみたい」


 ひそひそと要望を伝えると、他の馬の陰になったタイミングで、上手に変身してみせた。手を繋いで歩けば、兄弟みたい。問題なし。スノーが肩に乗ると、黄色いネズミ系アニメにそっくりだった。


「こっちだ」


 手招きするジャックに従い、大通りから左側に逸れた。少しいくと、突然大きな屋敷がある。攻め込まれた時の対策として、この街は迷路のような作りらしい。領主の館は戦の本陣になるので、見つかりにくいよう、錯覚の仕掛けが施されたんだとか。

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