256.1人いればまだいる!(2)
「この世界から帰れないのは知ってるけど、爺さんはなんの用事で呼ばれたんだ?」
それぞれに何らかの役目があるなら、事前に聞いておかないと。チート同士がぶつかると大事件だからな。オレが良かれと思って何かしたあと、それが爺さんの不利に働いた場合覆される可能性があるし。他に転生や転移の異世界人がいて、知り合いなら連絡してほしい。
オレ個人の思惑で尋ねると、爺さんはきょとんとした顔をした。あれ、なんか変だぞ。
「いや、寿命で死にましてな。そうしたらこの世界で目覚めておりました」
「……何その裏山展開。オレは死に方も最悪だったし、目覚めたら戦場だし。いきなり放り出されて何も持ってないし、魔法の使い方も知らずに、死にかけたんだぞ!」
よく生きてたな、オレ。レイルに出会ったのはラッキーだった。あと傭兵もジャック達の班だったから、生き残れた気がする。銃を突きつけられたりしたけどね。今になればいい思い出です、うん。
「はぁ。それはまたご苦労なさったようですな」
「……ちなみに何年生まれ?」
「平成の頭ですな」
「え? 意外と近い! ちょい待て、それなのに今が老人ってことは未来から過去へ転生? いや、オレだけ異世界の過去へ……あ、だめだ。理解できない」
生まれ年が近いくせに、先に転生してもう老人。つまり時間軸は真っ直ぐじゃない? こういうのは理系の天才じゃないと説明できんわ。とりあえず、爺さんに聞くべきことがわかった。
「あのさ、エヴァの最終話ってどうなった?」
オレが死んだ時はまだ映画版が続いてたんだよ。どきどきしながらネタバレ乙しようとしたのに、爺さんは首をかしげた。まさかのまさか?
「エヴァって何じゃろうか」
「くそっ、真面目かよ! 漫画とかアニメに興味なかったクチじゃねえか」
畳を叩いて呻く。そんなオレを、穏やかな目で見下ろす爺さんに八つ当たりしても、何も変わらない。爺さんはなんら使命らしきものを与えられずに、ただ転生した。しかも老衰後で欲がなかったとしたら、何のために呼ばれたんだろうか。日本文化を広めるためだけ? あのカミサマなら、数合わせで呼びそうだけど。
貸した分を返すとか言ってたし。実害なさそうな爺さんに、ご褒美で新しい人生を与えたのかもね。
「失礼。えっと、ワサビはどこで手に入る?」
「育ててますぞ、裏山にあります」
裏山展開ならぬ、裏山栽培。誰が上手いこと言えと。
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