22.増えた仲間たちの確執(3)

「卑怯だぞ!!」


 叫んで銃を探る。いつも枕の下にある銃が見当たらず、きょろきょろと周囲を見回した。にやにやと笑うヒジリが顎の下の手を動かすと……彼の肉球の下から銃口が覗いている。


 ほんっとうに、油断しすぎだろ…オレ。


 一気に疲れて倒れこんだオレの頬に鼻を寄せたヒジリは、得意げに鼻息を吹きかけた。金色がかった瞳の瞳孔が広がって丸くなる。


『そう騒ぐな、主殿。腹が減るだけだ』


「……そうだな、とりあえずご飯食べよう」


 腹が減ってるから変なことを考えるのだ。満ちていれば、ここまで腹が立つこともない。自分を慰めながら身を起こせば、音もなくベッドから降りたヒジリが足に擦り寄った。


「そういや、足の痛いのも肩も全部治ってたけど」


『治癒は我の得意分野だ』


「へえ、舐められたのがそう?」


 答えとばかり、尻尾が大きく揺れた。黒い背中に興味半分で跨る。嫌がるかと思ったが平気なのか、そのまま乗せて歩き出した。肩から背中にかけての筋肉が大きく脈打つ。寄りかかるように寝そべって、首に手を回した。


 無理やり強行された契約だが、このもふもふ具合はいい。漆黒の獣を従えるのも厨二っぽくて格好いいし、ビロードに似た手触りも捨てがたかった。うん、素直に受け入れよう。解約できないんだから。


「ありがとうな」


『主殿と我は一心同体だ』


 首に手を回して抱きついたまま、ぐるぐる鳴る機嫌の良さそうな喉まわりを撫でながら進んだ。階段は少し怖いが、落とされることもない。


「起きたのか、キヨ」


 ジャックは汗を拭きながら近づく。逆にノアは少し距離を置いており、ライアンにいたっては腰のベルトに手を伸ばしていた。ヒジリが聖なる獣だと聞いても、猛獣にしか見えない。


 子供の外見をしたオレとの組み合わせは、大型犬と少年という微笑ましい構図に遠く及ばなかった。贔屓目ひいきめにみて、人間の子供が肉食獣に連れ去られる姿あたりか。


「おはよ、皆。寝過ごしちゃった」


「今日くらいはゆっくり休め。明日から訓練を開始するらしいぞ、シフェルは会議だから講義はないだろう」


 恐る恐る近づいたサシャがオレの長い髪をくしゃりと撫でる。少し手が震えているが、気付かないフリで唇を尖らせた。


「ええ~、明日って早朝から?」


 いつも通りに振舞うオレの態度に、ジャックが笑い出した。腹を抱えて笑った後、「お前は本当に大物だな」と髪を乱す。ぐしゃぐしゃかき回したあと、覚悟を決めたように膝を落として、ヒジリと目を合わせた。

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