22.増えた仲間たちの確執(2)

 聖獣は魔獣とは区別されるらしい。聖なる獣と書くだけに、やっぱり賢いのが特徴だ。使い魔程度でお使いをこなす魔獣の知能は5~6歳の人間程度。聖獣は人間の大人並みの思考能力と大量の知識を誇る。


 まったく別物と考えたほうがよさそうだ。


「ふぁ…っ。ヒジリは…、なんでオレの誘拐に手を貸したんだ?」


 単純な疑問を、大きな欠伸に続いて投げかけた。一週間以上の戦闘訓練に耐えてきたベッドは、もう限界のようで悲鳴を上げている。その上で平然とヒジリが前足を組んであごを乗せた。


 オレはミシミシいうベッドの上で寛げないけどな。今も、真っ二つに割れたら、すぐ飛び退すさる気満々だ。早朝訓練で数人いっぺんに飛び降りたりされたから、耐久性能以上の仕事をさせられただろう。哀れなベッドに同情を禁じえない。


『あれは我ではないぞ』


「ん?」


『主殿を誘拐したのは魔獣だ。我が住む西の森に主殿の魔力を感じて並走したところ、隣の魔獣と一緒に攻撃されただけの話。我に傷を負わせる主殿に惚れこみ、した』


「うん?」


 奇妙な言葉が聞こえた。


 まず、最初に黒い沼を作ったのはヒジリじゃない。あれは使役された魔獣だったのだろう。確かに最初は1匹だったのに、西の自治領主の館から逃げ出した後で2匹になった。どこで増えたのか覚えてないが、反撃を試みた頃にはのだ。


 そして契約は強行されたらしい。


 確かにオレは契約を承諾していないし、いつの間にか「契約後だよ」と告げられただけなので、強行という表現は間違っていないだろう。しかし本来は反対を押し切った場合に「強行」という単語を使うのではないか?


「強行、した?」


『うむ。契約の魔法陣が弾かれたのでな、上下左右から縛って契約した』


 複数の魔法陣を描いてオレを束縛した上で、強制的に契約を行った――と。


「どのタイミングで?」


『撃たれたあとに主殿に魔法陣をぶつけたが弾かれ、落ちた主殿が意識を失ったところに四方八方から魔法陣で包んで契約したぞ』


 なぜドヤ顔で尻尾を振ってるのか、この聖獣の心境が理解できない。だれか100文字くらいで簡単に、オレが理解できる形で説明してくれ。


 得意げな顔をしているが、それって意識のあるオレに勝てないから、気を失ったのを幸いと襲った……って直訳しても間違ってないだろ。


「……解約方法は?」


『どちらかが死ねばよい』


「なら……しねぇ!!」


 反射的に襲い掛かってしまった。巨大な肉食獣だろうが、聖なる獣様だろうが知ったことか!! 怒りのままに放った火の魔法が、再び目の前で四散する。

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