44.主殿、これは処分しよう(3)

 そのまま取っ組み合いのケンカに突入した聖獣達を、ジャック達は困惑の顔で見守る。唸り声を上げながら噛み付き引っかく彼らの様子は、大型の猫が縄張り争いをしているみたいだった。


「大丈夫か? キヨ」


「ううっ……怖かった」


 ノアに助け起こされ、久々にオカンに慰められる。白金の髪に絡まった葉やゴミを取り除いてくれる彼の手が、落ち着いて撫ではじめた。ジャックやジークムンドの手荒な撫で方と違い、気持ちが落ち着く。


「……ヒジリ、ただの獣みたいだぞ」


 怖がらされた仕返しも込めて、ぼそっと嫌味を口にする。ぴくと反応した耳がこちらを向き、続いて猫を踏みつけにしたヒジリが顔を上げた。


『主殿?』


「その猫、本当に聖獣か?」


『聖獣だよ、青いだろう?』


 猫自身から返事をもらってしまい、引きつった顔で頷いた。確かに青い猫が聖獣なのは聞いているが、喋る時点で普通の猫じゃない。かつての常識で言ったら、あり得ない。


 しっかり前足で猫を踏むヒジリの前にしゃがみ、青い猫を覗き込んだ。青といっても空色だ。ペンキみたいにのっぺりした色じゃなくて、パール系のきらきらした感じだった。しかも瞳は金色。これはヒジリと同じなのだが、もしかして聖獣はみんな金瞳なのかな。


『主殿、これは処分しよう』


「いやいや、処分とか物騒なこと……」


『そうです、僕は役に立ちますよ!』


 必死でじたばた足掻く青猫が自己アピールを行う。処分されないよう慌てている猫の姿は、実家で飼っていたボス猫より幼く見えた。肉食獣のヒジリに捕まっているなんて、可哀相になる。だが聖獣である以上、この猫も非常識な能力を持っている可能性が高い。


 ヒジリでさえもてあましてるのに……眉をひそめて猫を眺めた。種類はロシアンブルーが近い。同色の滑らかなビロード調の毛皮で、ふさふさ柔らかそうだった。抱き心地はいいかも知れないが、何しろでかい。メークイン……じゃなかった、それは芋だ。メインクーン規模の大きさがあった。


 12歳の外見のオレが抱っこしたら、間違いなく猫の足が地面に届くレベルのサイズだ。


「うーん、役に立つかな」


 猫だしな。どこまで言っても猫だもんなぁ。


『僕は風を操れます』


「使えるのか? それ」


 唸るように呟くと、ノアが襟をひょいっと引いた。顔を上げると小声で話しかけられる。


「キヨ、その猫と会話してるのか?」


 え? もしかして皆は話が出来てない? オレは厨二をこじらせたイタイ奴みたいに見えるの? 


 ジャックやジークムントは曖昧な笑みを浮かべているし、ライアンは視線をそらす。困ったような顔で首を振るサシャ、ヴィリは座り込んでこちらを見ない。どうしよう……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る