220. 黒幕特定は任せた! オレは大切な用がある(2)

 ごくりと喉を鳴らし、本当かと念を押す男に頷いた。北の王族を殺せと命じられ、失敗して捕まったのに禁固で済むなんて思わなかったらしい。金に困っての犯行だろうが、こんな頼りない傭兵をよく雇ったもんだ。


「大きな鳥が羽を広げていて、刺のある花を爪で掴んでる紋章だった。背景が丸じゃなくてこんな形だ」


 縛られた手で拾った枝を使い、がりがりと五角形を描いた。珍しいな、普通の紋章は丸が多い。あとは皇族の六角形か。ひとつ欠けてる角……ん? 見覚えがあるような??


 ぐいんと首をかしげて考え込むオレに、レイルが舌打ちした。戻ってきてたのか。斜め後ろに立った従兄弟を振り返ると、心当たりがあると顔に書いてある。


「オレも見たことある気がする」


「そりゃそうだ。お前が与えられたエミリアス家も五角形だからな」


「うん? つまりオレの家紋で偽装された、でオーケー?」


「全然違う、皇族の分家はすべて五角形だ。エミリアス、リューブラント、シュテルン、ヴァーデンフェ、グランバリで5つ。五角形は分家の数だよ」


 なるほど。ちゃんと意味があったんだ。ということは、リアムの本家が六角形なのは……5つの分家と1つの本家を示している。複雑なこと考える奴がいたんだな。


「エミリアス家は本家預かりで、皇帝の姉妹や兄弟が臣下に下るときに与えられる家名――つまり本家に一番近い筆頭分家ですぞ」


 ベルナルドが説明を追加してくれた。つまりオレが分家筆頭で、他の分家の当主にやっかまれて狙われた……で、ファイナルアンサー?


 竜殺しだろうが平民みたいな奴が、皇族分家の筆頭になったと思ったら、今度は本家の養子だ。それは気分が良くないだろう。だからといってオレを殺せばいい話ではないが、考えが短絡的過ぎた。


「大きな鳥の紋章はどの分家?」


 オレの紋章は竜が薔薇を踏み締めるデザインだった。


「エミリアスが竜、リューブラントは世界樹、シュテルンは海、炎のヴァーデンフェ、鳥は……」


 残ったのはひとつ。


「グランだな」


「グランバリだ」


 ドヤ顔で言い切ったオレの後ろで、くつくつ肩を震わせて笑うレイルが訂正する。くそ、そこは流してくれ。恥ずかしいだろ。


「我が君、お勉強をサボられましたか」


「……焼き付けの急ごしらえだぞ。たぶん焼き付けに入ってなかった」


 魔法陣で焼き付けた知識から漏れてたんじゃないか? だとしたら内容を決めたシフェルの手落ちだな。責任転嫁して、オレは赤くなった頬をコウコの鱗で冷やした。

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