222.元気を出すには、美味い飯だろ(3)

「これで終わり」


 前回ひっくり返した粉は袋ひとつ分、そして今回量った小麦粉の重さを引いて、バターはこの塊1つだったかな。


 思い出しながら材料を混ぜると、匂いで気づいた傭兵連中が集まった。覗き込んだ彼らの目に期待が浮かんでいる。


「これってこないだの?」


「めちゃうまのスープか!」


 一度味を見て、何かコクが足りないと目を細める。そこへヒジリが戻ってきた。彼が持つ鶏肉にぽんと手を叩いた。


「そうだ、肉が入ってない!!」


 大急ぎで捌くノアをサシャが手伝う。よく切れるナイフで皮を削ぎ落とし、あっという間に鶏肉が用意された。前回は細い繊維状の肉だから、違う肉だった気がするけど……覚えてないんだよな。あまった肉を適当に入れた気もする。シチューなら鶏肉で美味しいはず。


「この料理はシチューって名前だぞ」


 教えてやれば、「おお!」と盛り上がっている。肉を粉砕して入れる。この辺はブラウが得意げに担当してくれた。肉を持ち帰ったヒジリを撫でて、その背中にマロンを乗せた。焦って恐縮するマロンだが、ヒジリは毛繕いのようにマロンの手を舐める。


「前回と同じように攪拌すれば、再現できるはず!」


 オレの宣言に、傭兵の目が期待に輝く。離れたキャンプ地から正規兵が数人様子を見にきていた。ちなみにシフェルは姿を消したままだ。捕まえた後、しっかり約束したから大丈夫だと思うが余計な報告してたら〆るぞ。


 ビニールや料理のレシピ、そんな平和な物だけこの世界に置いていける人生がいいな。喜ぶ傭兵を見ながら、満足げなマロンの頭を撫でた。


 用意した粉とバターを入れて、ミキサー化した水流で鍋の中身を細かくする。ブレンダーだっけ? あんな感じだ。イメージが大事なので、ドロドロの野菜ジュースを想像しておいた。


 個人的にシチューは白か茶色だと思う。白くなれと願えば、材料のせいで青紫だった鍋の液体が脱色された。魔法、まじ万能だな。


「よし!」


 ドロドロのルーみたいになったシチューを、並んだ3つの鍋に均等に分ける。量を計りながら蜘蛛から絞る牛乳もどきをたっぷり注いだ。コウコはあっという間に4つの鍋の火加減を調整する。聖獣もまじ万能、便利すぎた。


 大量に作ったシチューをひとつ味見する。少し薄いか? いや、ハーブ塩で調整すればいける。湯気とよい匂いを漂わせる鍋をひとつ、収納へ入れた。


「食べる準備しておいて」


 声をかけてから、正規兵の方へ向かう。シフェルが何やら書類作成する隣のテントで、収納から鍋を取り出した。成功だ! ちゃんとこぼれないで運べたぞ。満足しながらシフェルに声をかけた。


「これ、シチュー。食べるならどうぞ」


「ありがとうございます、皆も喜びます」


 公爵閣下らしい満点の返答に頷き、オレは大急ぎで傭兵テントへ駆け戻った。オレの分、ちゃんと取ってあるんだろうな!?

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