222.元気を出すには、美味い飯だろ(2)

『承知した』


 頼られた聖獣の喜びようって、忠犬そのものだ。ヒジリは尻尾をゆらゆら左右に振りながら、機嫌よく影の中に消えた。ネコ科の奔放さは黒豹ヒジリから感じない。


 火加減調整はコウコが最適だ。ヒジリの狩りの腕はお墨付きだし、夕食用の黒酢に漬ける兎も追加注文した。スノーは小さな手でもそもそ皮を弄っていたが、すぐに凍らせて剥がす方法を会得する。彼が凍らせた隣で、傭兵が手袋でごりごりと皮を剥いでいく。


 この辺は任せてしまおう。鍋を取り出し、いつもの位置まで水を満たした。すぐにコウコが下で熱し始める。


『ご主人様、僕……僕は』


 何か仕事をくれと強請るマロンが、ぽんとオレの小型版に戻った。こちらの姿の方が楽なのかな? 抱っこして連れて行き、少し離れた机の上にどろりとした小麦粉の塊を乗せた。


 前回、鍋から回収した小麦粉だ。入れすぎた分をそのまま収納へ証拠隠滅したが、これを乾燥させて重さを量る。


「マロン、これは重要任務だ」


 お前だから任せる、そう告げると緊張した面持ちながらも勢いよく頷いた。


「オレが乾燥させた小麦粉を、これで量ってくれ。重さを正確にだぞ」


『わかりました』


 コウコの火とブラウの風を操って、飛ばさないように小麦粉の乾燥に挑戦する。何度か調整しながら、サラサラになった小麦粉を渡した。ちなみに入れ物がないので、魔力で作ったビニール袋もどきを使用している。


 魔力に重さはないので、計量の際に便利という思わぬ効能があった。今後も積極的に利用しよう。オレの異世界人の恩恵として、この魔法を伝えてもいいな。異世界人って、何かしらこの世界に恩恵を与えてるっぽいし、やっぱり一つくらい何か残しておこう。


 ビニール素材の概念がない世界だから、ラップとか便利かも。そんなことを考えながら小麦粉を弄っていたオレは、風で舞った粉を吸い込み、盛大にクシャミをした。粉が舞い散るのを見て、慌てて巨大ラップを作って覆う。危なかった……。


 量が計算できなくなるじゃん。真っ白になった巨大ラップの内側で、ブラウ譲りの風を操作して粉を一ヶ所に集め直す。ラップを想像してたおかげで、魔力をすぐに変換できて助かった。


 真っ白になったオレとマロンからも、粉を回収した。驚いた顔をしたマロンが嬉しそうに笑う。何か気に入ることでもあったか?


『今、僕とご主人様はお揃いでした!』


「……確かにお揃いだったな」


 頭から真っ白な粉塗れだった。くすくす笑いながら集めた粉を量る。だいぶ慣れたマロンの手元を見ながら、次の粉を渡した。一緒に作業すること自体が嬉しいようで、マロンはにこにこと笑顔を絶やさない。

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