278.後始末より夕食優先(2)

 愕然としている時間が惜しいので、届いた食材を確認する。官舎には定期的に食材が届くよう手配してあった。誰かが常にいるし、余ったら収納すればいいのだ。


 今日は豚肉っぽいのをソテーして、先日ゲットした醤油とバターの共演にガーリック足しで、禁断の味に仕上げる。いつもより厚く切るよう指示し、オレはスープの準備に取り掛かった。


 豚肉もどきのガーリックバター醤油味なら、スープはある程度濃厚でもいいだろう。さっぱりコンソメも捨てがたいが、いまだにコンソメの顆粒に出会っていない。宮殿の調理場に頼むべきかも知れないな。牛乳もどきがあるので、ホワイトシチュー。巨大蜘蛛から絞ったなんて、言わなきゃ平気さ。この世界の奴は常識みたいだけどな。


 手早く野菜をカットし、肉を手際よく処理していく。その間にブラウやスノーに仕事を与え、火の様子も見なくてはならなかった。うちの火焚き娘である紅一点コウコ不在なのだ。こんなときにオカンのノア達が東の国なのは痛い。くそ、連れ帰るか。


 唸りながら料理の手を止めないオレの様子を見て、ブラウさえ文句を言わずに手伝った。スノーも合間を見て果物を取りに向かい、ヒジリが持ち帰った狩りの成果がジークムンドの手で解体される。一段落したところで、味付けに向かった。


 シチューにコンソメが足りないので、大量の野菜をミキサーに掛ける。この魔法は蓋を忘れると半端なく熱く悲惨だった。先に蓋を作り、それから一気に回す。風を入れずに水流で! 砕けた野菜がとろみと甘さを出したところで、牛乳を投下。そこから泡立つ鍋の中身に別茹でした野菜と肉も入れる。


 いつもなら野菜と肉は粉砕されているのだが、リアムが来るからね。しっかり食べた感じにしたい。彩りも綺麗だし。ちょっと奮発した皿を用意し、鍋の味見を済ませて火力を落とす。


 焦げやすいので注意するようユハに頼み、隣で手持ち無沙汰そうな青年に食器の準備を命じた。これで準備完了か。ぎりぎり間に合った。ほっとしたところに、解体された肉が届く。肘まで真っ赤に汚れたジークムンドに礼をいって、着替えるようにお願いした。リアムが卒倒するぞ。


「今日は皇帝陛下がご一緒される。オレの婚約者なので、今後もちょくちょく来る。敬礼とか礼儀作法とか、うるさく言わないけど……泣かせたら殴るから」


「「「おう」」」


 拳を突き上げて同意してるが、本当にわかってるのか? 首を傾げながら、オレも自分の服装をチェックした。飛んだ汚れとかない、よな。


「キヨ様、陛下とこちらをお使いください」


 じいやが取り出したのは、顔が反射する鏡のように磨かれたシルバーだった。すげぇ、いつの間に用意したんだ……。

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