300.カレーは飲み物だぁ!(2)

 粉の量がよく分からないが、とろみが出るように小麦粉を混ぜてルーを作る。トミ婆さんの作り方を見ながら、粉の量を10倍くらいで作った。トミ婆さんのレシピだと2人分なんだよ。だけど傭兵は通常の2倍で8人分、リアム、オレ、じいや、聖獣5匹護衛が2人。で18人分だと9倍で計算する羽目になるけど、余分に作った方がいいとオレの勘が告げるので、10倍で20人分。これなら足りるだろう。


 もう少し作るか? 迷いながら南の国でゲットしたフライパンでスパイスを炒る。小麦粉が入ったところで、牛乳っぽいミルクで薄めた。辛さ控えめで行こうと思ってね、確か牛乳でまろやかになったよな?


 トミ婆さんのレシピの分量をもう一度確認して、練ったルーをお湯で溶かしてから鍋に投入した。満足そうに頷くじいや、料理手順は合格をもらえたらしい。大量に作り続けたオレは、戦場の料理番というより、給食のあんちゃんだ。


 巨大シャモジで混ぜるカレーがいい匂いで、腹が鳴る。徐々に重くなるシャモジは、途中でノアが引き受けてくれた。焦げやすいからと注意して、リアムの迎えに出ようとしたら……官舎の前に大量の兵士や侍女、執事のセバスまでいた。


「えっと?」


 首を傾げたオレに、咳払いしてセバスが声をかける。


「キヨ様、先ほどから宮殿内にまでよい香りが漂っており、皆が興味をもっております。よろしければ、料理の名前など教えていただけますでしょうか」


「ああ、カレーね。よければ作ろうか? 明日の昼になるけど」


 セバスや侍女の皆さんが手を叩いて喜ぶ。微妙な顔をしたのは兵士達だった。うっかりオレに敵対してきちゃったから、食べさせてくださいと言いづらいらしい。そわそわしているが、誰も口を開かない。


「今夜はリアムや傭兵達と味見るから、問題なければ昼に作るよ。油も入ってるし、朝食向きじゃないからね。オレは米で食べるけど、慣れないうちはパンでも美味しいよ」


 そういや、フライパンで作れるナンのレシピもあったな。カレーに夢中で作るの忘れてた。この国はヨーロッパ風の料理が多くて、コース料理なのは貴族風だからだと思う。平民の食堂だと、大皿に盛った料理が主流で塊肉にソースどぱっ! って感じだった。


 西は魚介系のスープが美味しかったよな。あれは地中海風ってやつか? 青いトマトもどきのスープ、美味しかったな。北は完全に中華料理だったし。南と東が和風食材の宝庫だから、仲良くしておこう。


 そう、そしてカレーの国がないのだ。トミ婆さんがいなければ、この世界にカレーは持ち込まれなかったと思う。南の国と東の国が被ってるんだから、どっちかカレーにすりゃよかったのに……ん? オレが和食としてカレーを広めたらいいんじゃないか?


 カレー粉製造販売について、トミ婆さんと案を練ろう。うまくいったら、トミ婆さんに年金支給できるし、今後現れる可能性がある日本人にレシピを伝授して作って貰う手もある。


「特許、特許取らないと。カレー粉のレシピを登録しよう」


 こういう話はウルスラ宰相に……あ、今夜の予定が空いてたら夕食に誘えばいいか。


「セバスさん、宰相のウルスラさんを夕食に誘いたいんだけど……」


「お伝えしておきます。明日のお昼にご馳走していただけるんですよね?」


 ウィンク付きでナイスミドルに頼まれたら、ノーと言える日本人じゃないぞ。いつもリアムを助けてくれる人だしね。恩を売りまくったら得しか残らない。


「後で人数だけ教えてくれる? 材料を用意しないといけないから」


「かしこまりました。ではローゼンダール侯爵閣下にお伝えして参ります」


「よろしく」


 見送りながら、ローゼンダール侯爵閣下がウルスラだと気づくまで、数分かかってしまった。

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