300.カレーは飲み物だぁ!!(3)

 お供え感覚で、まずは聖獣の前にカレーを並べる。カレーライスだが、お椀を使ってチャーハン風にしたご飯の上にカレーをドバッと掛けた。聖獣は獣食いするからな。味が満遍なく染みてる方がいいだろう。


 オレの渾身の作である熊っぽい何かの形をした白米に、布団風にチーズを乗せて、そっとカレーを流し入れた。これはオレとリアム、じいや用だ。傭兵達には丁重にお断りされた。くそっ、微妙な形をしてるのを押し付けようと思ったのに。


「いただきます」


「「「いただきます」」」


 声を揃えて挨拶し、一斉にスプーンを入れる傭兵。食べた後、かっと目を見開く聖獣! そしてリアムはどこから食べようか困っていた。


「どこから食べよう」


「頭は?」


「最後まで残したい」


「じゃあ、足か腹かな」


 手は上に乗せた形なので、腹を真っ二つか足を切り落とすか。そう表現すると途端に残酷だな。明日はチャーハン風で統一しよう。うん。オムライスにかけても美味しそう。お昼はそれがいいかな?


 カレーの懐かしい香りに誘われて口に入れる。日本で食べたのより香りが強くて、ぶわっと口の中で広がり……爆発した。


「ぐっ、げほっ……なんだ? めちゃくちゃ痛い」


「辛すぎたようですね」


 冷や汗を拭きながらじいやが指摘する。辛すぎて痛いのか! あ、リアムを守らないと――焦って振り返った先で、リアムはけろっとしていた。足部分の米をざっくり削いで、たっぷりカレーを乗せてぱくり。嬉しそうに頬を赤く染める。


 顔を上げた先で、傭兵達も平然と流し込んでいた。マナーも作法もない。かき混ぜて一気に口をつけて流し込む。あ、これ、足りないやつだ。倍くらい作ればよかった。がたんと椅子を揺らして立ったライアンが山盛りにお代わりし、慌てたジャックが喉に詰まらせて暴れる。ノアが無理やり水を流し込んで、そのままお代わりに立った。


 サシャはノアの後ろに並び、その後ろで目を輝かせるコウコが器を持って続く。聖獣は香辛料平気なんだ? 人間の食べ物が平気なのはわかるが、豹もカレーとか問題ないの?


 マロンとスノーはお子様舌らしく、はふはふ言いながらも食べている。美味しいけど、熱くて辛い。といったところか。じいやがまさかの戦法に出た。米だけ追加だ。それは卑怯だぞ。我慢しようとしたが無理で、じいやの卑怯な戦法をそっくりパクった。


「じいや、辛味の原因スパイスって分かる?」


「残念ですが、わかりかねます」


 だよな。いくら優秀な執事で日本旅館のオーナーでも、カレーの知識は専門外だ。それもスパイスだから……料理長あたりに相談してみようか。カレー粉を提供する代わりに、どのスパイスが辛いのか教えてもらおう。


 明日への対策を練りながら見つめる先で、ざらぁと皿から流し込んだカレーを飲む青猫が叫んだ。


『カレーは飲み物だぁ!』


「それは前にも聞いた」


 どっかのアニメに出てきた看板だろ? 現実にそういう看板があるとテレビで観た気もする。ところでブラウ、お前、鼻血出てるぞ。実は辛いの苦手だろ。


 リアムは上品に、だが着々と熊型の米を解体して「ごちそうさま」と笑う。この笑顔が見られたならいいか。辛口も悪くないよな、でも絶対に甘口カレーも作ってやる。

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