300.カレーは飲み物だぁ!!(4)
リアムが気に入ったので、料理長にレシピを伝授することになった。もちろん、カレー粉はこちらで調合する。いっそトミ婆さんとアルベルトに頼んでみようか。すり潰す作業は孤児の仕事斡旋に使えるな。各スパイスごとにすり潰してもらって、最後のカレー粉製作だけアルベルトこと海斗に頼もう。
今日の夕飯は好評だったが、量は足りなかったらしい。まだ食べられると豪語するジャック達に、明日のお昼に出すからと納得してもらった。流し込んだから実感がないんだろうけど、普通に2人前食ってるからな? 足りないはないだろう。サラダ残しやがって。次からサラダを食わないとカレーは与えない方式でいく。
リアムを無事に部屋に送り届け、セバスと明日のカレー昼食会の参加者数打ち合わせた。151人って……上級使用人がほぼ全員じゃないか? かなり絞ってこの人数だとお願いされたら、減らせとも言えない。
辛さの調整ができてないが、中央の国の人はスパイスの辛味は平気らしいので無視。大量に作ってやんよ。笑顔で約束して官舎に戻り、じいやと聖獣総出でスパイスを砕いてすり潰した。
早朝訓練で飛び込んだジャックが、振り返ったオレに銃口を突きつけられ両手を挙げる。一瞬で降参だった。部屋の中に舞うスパイスで、サシャが咳き込む。ノアが咄嗟に口と鼻を布で覆ったが、目に染みて涙ぐんだ。
やや隈が出来たオレの目は座り、ぼろぼろ涙が出て赤く目元が腫れていた。途中までは順調だったのに、最後の最後でくしゃみをしたブラウのせいで、全員が目元を腫らした。
青猫? オレの足の下で土下座中だが、なにか?!
『主ぃ、わざとじゃない。わざとじゃ』
「わざとだったら、その尻尾引き抜いてるわっ!」
過失だったから踏み付けと土下座で許してやったんだぞ。ヒジリなんて黒豹パンチでブラウを叩きのめし、コウコが締め落とした後だけどな。スノーは果物を取りに留守だったので無傷、人化して作業中で被害が大きすぎたマロンはまだ泣いていた。
「まだ目が痛い」
「徹夜だったのか?」
訓練中止を告げるジャックに従い、ライアンが合流して顔を顰めた。スパイスの匂いがやはり気になるらしい。でも食ってたけどな、がっつり食ったけどな! 二度言っておく。
「徹夜だった。じいやは撃沈して、そこにいる」
先程、肩が痛くて動けなくなるまで頑張ったじいやが殉職した。いや、表現が悪かったです。治癒した上で休んでもらった。魔法で粉砕した後、香りを出すために摺る作業が意外と辛い。何か新しい便利な道具……石臼? 構造がわからんな。石同士が擦り合うのは理屈としてわかるんだが、どうやって外に出てくるんだ? 人力だと大変だし。
孤児に作業させようと思ったけど、もしかしたら危険手当が必要な仕事かも知れない。慎重に判断しよう。
『主殿、くしゃみが……っ』
「我慢だ!」
咄嗟に布巾でヒジリの顔を覆う。さっき台を拭いたやつだが許して欲しい。今、スパイスが飛んだら大惨事なんだ。オレの踏み出した足がにじった青猫も大惨事だった。
『ぐぎゃぁ、腹ぁ!!』
「あ、ごめん」
悶える猫を撫でてやり、立ち上がると手を洗った。獣に触ったんだから当然だよな。
『主ぃ、……僕は、汚く、な、ぃ』
ダイイングメッセージみたいになってるぞ? 呻きながら訴える青猫に、けろりと返した。
「何言ってんだ。人間同士だって髪に触ったら、料理の前に手を洗うんだよ。それより朝食はノア達に任せていいか? これから調合なんだ」
すでに極秘の薬扱いのカレー粉レシピの重要性に気づいて、ノアが頷いた。
「任せろ、向こう半分を借りるぞ」
「頼む」
以前と違い、傭兵の地位が向上しつつあるため、官舎に材料はふんだんに用意される。皇帝陛下の婚約者も住んでるし、厨房の連中とオレは仲がいい。傭兵を見下すのは貴族、騎士、兵士だろうか。軍属以外の使用人達は、徐々に意識が変わってきていた。
「この間に極秘調合を開始する」
オペの執刀くらいの厳かな口調で、スパイスを慎重に計量し始めた。まだ辛味スパイスは判明していない。今日の昼食も、激辛カレー確定だった。
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