300.カレーは飲み物だぁ!(1)
こっちがシナモンで、ローリエって葉っぱは煮るとき使う。スパイスを分類して、肉を炒める時に使うスパイスをじいやに渡した。
「肉は頼む。煮込むから表面を焼くだけでいいらしい」
「ルーを使う時と同じです。お任せください」
頼もしい。オレが過去に作ったカレーは、レトルトや冷凍をレンチンくらいだぞ。煮込み用のお湯を沸かすコウコを撫でて、火加減を弱火にしたらリアムを迎えに行ってくれるよう頼んだ。ルーが入ってなければ焦げないはず。
『ご主人様、これは潰しました』
「お、サンキュ! 次はこれだ」
すり潰し終えた粉を別の皿に移し、新しいスパイスを渡した。あれ、名前が分からないんだけど……時代劇で円盤型の石に棒を通して、下の受け皿の上で転がすやつ。薬を混ぜる作業で出てきてた。あの道具を再現してみた。
何度ヒジリに説明しても通じず、自分で石を生成したら一発だ。受けの方も円盤の太さに合わせて作り、木を刺すのが面倒で持ち手部分も石で作った。壊れにくいし、一体型だと隙間に粉が詰まらなくていいかも。
ごろごろと転がすマロンは楽しそうだ。果物を抱えて戻ってきたスノーが羨ましそうに見つめる。
「スノーもやるか?」
『やります!』
興奮した様子で、オレが途中まで潰した粒状のスパイスを砕いていく。ほとんど砕き終わったところで、ふと我に返った。
「あのさ、今更なんだけど」
「キヨの場合、風で砕いた方が早かったんじゃないか?」
気づいてたなら指摘してよ、ノア。真面目に道具まで作ったじゃん。まあ、これは後日他の人も使えるけどね。溜め息をついて残ったスパイスを計量して、空中ビニール袋へ投げ入れた。ミキサーの感覚で粉砕。皿に乗せると……あれ?
「なんか匂いが薄い?」
「キヨ様、スパイスは砕くのではなくすり潰した方が、香りが引き立つと聞いたことがあります」
「うん、遅かった」
仕方なく全ての粉を再びすり潰す。手分けしてゴリゴリと石で押すと、香りが出てきた。面倒臭いが今後もこの方法しかないな。時間ができた時に、纏めて作ろう。
「うまそうな匂いだ」
「そうか? 臭いぞ」
いい匂いと感じるジャックに対し、顔を顰めたのはライアンだ。狙撃手なんてしてるから、強い匂いがする食べ物は嫌厭するのかも? でも今は食べてもらう。今度のために意見を聞きたいからな。
「カレーって料理だよ。米で食べるから……」
「箸か?」
すっかり日本食文化に慣らされたサシャが棚に向かう。その背中にオレは笑いかけた。
「残念、今回はスプーンだ」
「米を掬って食うのか」
楽そうだな。そんな雰囲気のジャックは、箸が苦手だ。持ち方が難しいと顔を顰めていたのを覚えている。
『カレーは飲み物だ!』
叫んだ青猫は、一口大の野菜をすべて鍋に投入した。気合い漲る姿から、カレーへの執念が見える。
「ブラウはカレーを食ったことあるのか?」
トミ婆さん特製のカレー粉をひとつの皿に集めながら尋ねる。ここでくしゃみとかしたら、大惨事だな。フラグじゃないぞ。フリでもない。危険なので、結界で包んで空中ビニールに収納した。
『アニメで観た!』
「知識だけか。なら楽しみだな」
猫は本来玉ねぎ食わしちゃいかんのだが、まあ聖獣は全部平気だし。煮てるから甘くなるだろ。母親が圧力鍋を使ってたが、あれは便利だ。問題は蓋を取るタイミングが分からないから怖い。あとでじいやに使ったことあるか聞いて、試作してみるか。
「キヨ様、肉も入れます」
「うん、灰汁取りよろしく」
「……キヨ様の年齢でそんな知識をお持ちなのは珍しいですな」
料理漫画やアニメの知識とも言えず、曖昧に笑って誤魔化す。これは日本人の特技です……え? 違う?! いいじゃん、そういうことにしといてくれ。
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