299.人身売買じゃねえぞ(2)
謙遜するというより、自虐的に発した言葉に、リアムは首を横に振った。黒髪がサラサラと揺れる。
「そうじゃない。知っていても実行しない者がほとんどだ。セイは行動を起こして子どもを救うのだから、誇っていい」
リアムの言葉に胸が詰まって、鼻がつんとした。やばい、涙が出そうだけどカッコ悪いので瞬きで誤魔化す。
「う、ん。リアムがそう言うなら」
中途半端な知識を持ち込んで、なんとか生き残ってきた。苦労もしたし死にかけたけど、頑張ってよかった。頬擦りする黒豹に押されて、いつの間にか現れたコウコに巻きつかれ、マロンがしがみ付く。スノーが肩に乗ったところまでは感動のシーンだったが……頭の上に降ってきた青猫の存在で台無しだ。
「こら、ブラウ! 頭に乗るんじゃねえ」
「キヨ様、お言葉が乱れておりますぞ」
「すんません」
なぜオレが叱られなきゃならないんだ。むっと唇を尖らせた。しかも謝り方が不十分で、さらに説教される。くすくす笑いながら見守るリアムの手の温かさが嬉しくて、叱られながら頬が緩んだ。
「今夜はオレが作るから、官舎で食べよう」
「わかった。ワンピースでいいか?」
「先日買ってた薄緑のワンピース可愛かった。あれがいいな」
簡素な服装でいいかと尋ねるリアムに、愛らしいワンピース姿を強請る。どんな服を着てもオレの彼女は最高だが、買ったばかりの服を着る機会を作るのは婚約者の役割だろ。着た姿を褒めたいし、じっくり見たい。他の傭兵連中が帰ってくる前が、最高のタイミングなんだよ。
「わかった」
照れるとぶっきらぼうになる。可愛いなと心で呟いたつもりが、声に出ていた。真っ赤になったリアムに「もう!」とよくわからない抗議をされる。リア充万歳!!
一度別れて官舎に戻り、入手したスパイスを眺める。これをいい具合に混ぜたらカレーが出来るはず。問題は比率だった。カレー粉ってさ、ルーで売ってるじゃん。カルダモンがどうとか、ターメリックが何割とか。考えたことある? ないよな。普通の日本人でそんなこと知ってる奴の方がすくないわけ。異世界に来ていきなりカレー披露するのは、すごい高度なテクニックだった。
「じいや、カレー作れる?」
「ルーがなければ厳しいですな」
「だよね」
唸るオレは、日本人会から取り寄せた手紙を開封して確認した。女子高生だったパウラは現在、伯爵令嬢で……当然ながら料理の経験はない。クッキーとケーキは作れるらしい。ケーキは教わろう。
鍛冶屋のハンヌは35歳で死んで転生だが、料理は嫁さんに任せてたとか。羨まけしからん。日本でミュージシャンを目指してた解放奴隷のアルベルトも、ルーがあれば作れるそうだ。そんなのオレでも出来る、と思う。
最後の一枚はトミ婆さんだ。元フランス人の彼女は、インドを植民地にしてたイギリスじゃあるまいし。スパイスの粉の調合なんて……知ってた!?
「嘘、すげぇ、トミ婆さんのレシピ使えるぞ」
「ほう、カレーのスパイス調合ですか」
じいやも興味を持ってくれた。あれこれと調味料をすべて並べ、足りないものを厨房からゲットする。何しろ皇帝陛下に献上する料理なので、の一言で大抵の食材は手に入るのだ。しかもナンの作り方まで載っていた。
どうやら前世でよく作っていたらしい。ありがたやと手紙を拝んでから、じいやと手分けして準備する。急がないと煮込む時間が足りなく? あ、魔法でなんとかするか。
「ブラウ、野菜のカット。コウコ、煮たったら弱火で。マロンは……スパイスすり潰す手伝い。スノー、食後の果物よろしく」
それぞれに言いつけて、足元で尻尾を振る黒豹を撫でる。彼はすでに己の役目を果たしていた。兎肉の調達である。邪魔な角や毛皮を含め、ノアに捌いてもらっている。
あれ? うちの厨房スタッフ有能すぎね?
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イラスト&原作協力 蒼巳生姜様
小説 綾雅(りょうが)
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