140.作戦会議は夜会の片隅で(3)
「ヒジリ、他に方法は?」
『我が吐いた唾か血を飲んでも効果がある』
「血で……お願いします」
寄ってきたブラウが風を操り、ヒジリの指先を傷つける。ベロチューなら痛くないのに、申し訳ないことをした。目の前にお座りした黒豹の手を持ち上げて舐めようとしたら……なぜかヒジリに飛び掛かられる。長椅子の背に寄り掛かったオレにベロチューするヒジリの口が生臭い。つうか、血の味がした。
「やめっ……こら……ぶっ」
流し込まれた血を飲んだオレの喉が動いたのを確認し、ヒジリがのそりとまた足元に座る。見るとブラウの切った傷が消えていた。
「おま……、え? なんで?」
血をオレに舐めさせるんだよな? 最終的にベロチューなら唾液でいいじゃん。むっとしながら言葉にならない文句を吐き出すと、ヒジリは不思議そうに首をかしげた。隣でなぜか感激して口元を手で覆って目を潤ませるリアムが切ない。婚約者が獣ベロチューされたら、怒って欲しかった。
オレが思うより愛されてないのか?
『主殿の希望通り、血にしたであろう。何が不満か』
「全部不満だよ!! オレの傷舐めた口でベロチューも、血をくれるって言ったのに唾液だったのも納得できない」
全力の抗議は、後ろで大爆笑したレイルに台無しにされた。
「あはははっ、おまえ……っ、マジ……もう、無理」
涙が出るほど笑いながら腹を抱えて苦しそうな男に、収納から取り出したナイフを投げておく。げらげら笑いながらも受け止めたレイルは、まだ笑いの発作が収まらないらしい。先日借りたナイフを返したオレは、傷が治った足を撫でながら紅茶で口を濯いだ。
ついでに開いたままの収納空間へ、ぺっと紅茶を吐き捨てる。最近知った便利な使い方なのだが、液体を捨ててもちゃんと単独で取り出せた。忘れて全部出す呪文を使うと、中に入ってた物が水浸しになるトラップ付きだが、ちゃんと使える。
「なあ、収納の絆創膏使ったらよかったんじゃないか?」
ようやっと一息ついたレイルの指摘に「あっ」と気づく。この世界に来たばかりの頃にお世話になった絆創膏もどきだが、最近は聖獣ヒジリが便利すぎて忘れていた。足の傷はすぐに貼ればもう治っていただろう。
「もっと早く言ってくれ」
「お前の収納見て思い出したんだよ。あと……」
「まだ何かあるのか?」
ケンカ腰の口調と尖った声に、レイルは肩をすくめて耳元のイヤーカフを弄る。あれは通信用に彼が使っている魔道具のひとつだった。何か情報が入ったのだろう。
「さっきの狙撃犯の黒幕、見つけたぞ」
お茶に手を伸ばしたシフェルが顔をあげ、リアムは息をのんだ。シンは黒い笑みを浮かべて先を促す。そんな緊迫した場面で、レイルは意味ありげに口元を緩めた。
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